手形について除権判決の言渡しがあったとしても,これよりも前に当該手形を善意取得した者は,当該手形に表章された手形上の権利を失わない。
手形について除権判決の言渡しがあったこととこれよりも前に当該手形を善意取得した者の手形上の権利
公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律785条,手形法16条2項,手形法77条1項1号
判旨
手形の除権判決より前に当該手形を善意取得した者は、除権判決の効力にかかわらず、当該手形に表章された手形上の権利を失わない。
問題の所在(論点)
手形について除権判決が言い渡された場合、その言渡し前に当該手形を善意取得していた者は、除権判決の失権効によって手形上の権利を喪失するか。非設的な除権判決の効力と善意取得の関係が問題となる。
規範
手形に関する除権判決の効果は、当該手形を無効とし、申立人に手形を所持するのと同一の地位を回復させるにとどまり、申立人が実質上の権利者であることを確定するものではない。したがって、除権判決前に手形が善意取得された場合、従前の所持人はその時点で権利を喪失しており、その後の除権判決によっても権利は回復せず、手形上の権利は依然として善意取得者に帰属する。
重要事実
上告人(振出人)が振り出した約束手形が受取人から盗取された。被上告人は、当該手形を善意取得した。その後、受取人の申立てにより、当該手形について除権判決が言い渡された。被上告人は、振出人である上告人に対し、善意取得した手形に基づき手形金の支払いを求めて提訴した。
あてはめ
本件において、被上告人は除権判決が言い渡されるよりも前の時点で、有効な手形を適法に善意取得している。この時点で受取人(申立人)は手形上の権利を喪失しているため、その後の除権判決は受取人に「手形を所持するのと同一の地位」を回復させるにすぎず、既に他者に帰属した手形上の権利までを回復させる効力はない。また、公示催告手続における公告の現状に鑑みれば、善意取得者に権利届出を強いることは困難であり、善意取得者の権利を保護することが手形の流通保護の要請に合致するといえる。
結論
被上告人は手形上の権利を失わない。したがって、上告人に対する被上告人の手形金請求は認められる。
実務上の射程
手形の善意取得(手形法16条2項)と除権判決の失権効が衝突する場面での標準的な判断枠組みである。答案上では、除権判決の効力が「資格授与的効力」に限定されることを示し、善意取得による権利移転が確定していることを強調して論じる際に用いる。除権判決後に善意取得した事案とは区別が必要である。
事件番号: 昭和27(オ)94 / 裁判年月日: 昭和29年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形取得者の前者が善意の取得者である場合、後者が悪意であったとしても、後者はその瑕疵を承継せず、適法に手形上の権利を取得する。 第1 事案の概要:上告人を振出人とする手形について、裏書人Dが裏書譲渡を受けた。Dは原審において善意の取得者であると認定された。その後、被上告人がDから当該手形を取得した…