「見せ手形」として貸す約束で手形を振り出した場合であつても、この事由は悪意の手形取得者に対する人的抗弁事由となるに止まり、善意の手形取得者に対しては、振出人は手形上の義務を免かれることはできない。
「見せ手形」として貸す約束で手形を振り出した場合と手形上の責任
手形法17条(77条)
判旨
振出人が「見せ手形」として利用させる目的で手形を交付した際、欺いてかたり取られた場合であっても、署名及び任意交付が認められる以上、振出行為は有効に成立する。かかる詐取の事実は人的抗弁にすぎず、善意の取得者に対しては振出人としての義務を免れることはできない。
問題の所在(論点)
手形作成者が、詐欺によって「見せ手形」として交付した(いわゆる手形詐取)場合において、手形振出行為の成立が認められるか。また、その事実を善意の取得者に対抗できるか。
規範
手形への署名がなされ、それが任意に相手方に交付された場合には、振出行為は法律上有効に成立する。振出の動機や過程に詐欺等の瑕疵があったとしても、それは人的抗弁事由(手形法17条参照)を構成するにとどまる。したがって、振出人は、善意の第三者に対してはその人的抗弁を対抗できず、手形上の義務を免れることができない。
重要事実
振出人(上告人)は、Fから「見せ手形」として一時借用したいとの申し向けを受け、1週間ほどで返還されると信じて自ら作成した約束手形をFに交付した。しかし、Fは返還の約束を破り、手形を第三者Dに譲渡した。その後、Dは銀行へ裏書譲渡し、不渡り後に戻裏書を受けた後、さらに被上告人へと裏書譲渡した。上告人は、手形はFに詐取されたものであり振出行為は存在しないと主張して、手形金の支払を拒んだ。
あてはめ
本件において、上告人は約束手形に自ら署名し、Fに対して「見せ手形」として貸し与える意思で任意にこれを手渡している。この交付行為により、振出行為は有効に成立していると評価される。上告人は「Fに欺かれてかたり取られた」と主張するが、これはあくまで振出の先行過程における瑕疵にすぎず、手形法上の人的抗弁に該当する。本件の受取人Dについて悪意の立証はなく善意と認められ、その後手を取得した被上告人も善意であると認定されている。よって、上告人は善意の被上告人に対し、詐取の事実をもって対抗することはできない。
結論
手形振出行為は有効に成立しており、上告人は善意の所持人である被上告人に対し、手形上の義務を負担する。
実務上の射程
手形の交付欠缺(盗難・紛失等)と、交付の意思表示の瑕疵(詐欺・強迫等)を区別する。本判決は、交付の意思がある以上、動機に瑕疵があっても振出行為自体は成立し、人的抗弁の問題として処理すべきであることを明示した。答案上は、手形理論における交付の有無を論じる際に、交付の意思に基づき現実に占有を移転させた事実を摘示して振出の成立を認める根拠として用いる。
事件番号: 昭和30(オ)212 / 裁判年月日: 昭和31年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形振出の動機に錯誤があっても、それは振出行為の縁由の錯誤にすぎず、振出行為自体の錯誤とは認められないため、手形行為は無効とならない。 第1 事案の概要:上告人Aは、訴外D物産株式会社に対し、同社が本件手形を「見せ手形」として使用するものと誤信して交付した。しかし、実際にはD社は本件手形を裏書譲渡…