会社の代表取締役が他から不動産を買い受けた場合において、売主がその買主として信用のある個人を望み、各種会社、団体の役員をつとめ社会的信用のある右代表者個人をその最適任者と考え、売買契約においても右代表者個人の名義を使用したとしても、右会社が個人会社の実態を有し、その代金およびその後の維持費が会社の経理から支出され、右不動産が専ら会社の用に供せられていた等判示の事情があるときには、右売買契約を右代表者個人のためにされたものとすることは、経験則に反して許されない。
会社の代表取締役が不動産を買い受けた場合においてこれが右代表取締役個人のためにした売買契約であるとした事実認定に経験則違背の違法があるとされた事例
商法504条,民訴法394条
判旨
商行為となる取引において、代理人が本人のためにすることを示さずに個人名義で行った場合でも、商法上の非顕名主義によりその効力は直接本人に及ぶ。会社代表者が個人名義で契約を締結した場合、特段の事情がない限り、会社に帰属することを認めるべきである。
問題の所在(論点)
株式会社の代表者が個人名義で契約を締結した場合において、商法504条(非顕名主義)に基づき、その行為の効果が会社に帰属するか。
規範
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示であっても、その行為が本人にとって商行為となるきは、原則として本人に対してその効力を生ずる(商法504条本文)。本人が会社である場合に代表者が個人名義を用いた場合も同様であり、本人への効果帰属を否定するためには、非顕名主義の適用を排除するに足りる相当な事由が必要となる。
重要事実
株式会社Aの代表取締役B1は、宮家から土地建物の払下げを受ける際、B1個人の名義で契約を締結した。売主側はB1個人の社会的信用を重視していたが、同時に「老舗Aの代表者」としての印象も強く持っていた。買受代金は会社またはB1が後見していたD一家の預金から支出された疑いが濃く、建物の維持費も会社が支出しており、実際に会社の修養道場として利用されていた。原審は個人名義であることを重視し、会社への効果帰属を否定した。
事件番号: 昭和42(オ)524 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。
あてはめ
B1は実態として個人会社であるA社の経営権を握り、公私の経理が混淆していた。本件物件の代金や維持費が会社から支出され、会社の事業目的(修養道場)に供されていた事実に照らせば、本件取引は会社のための商行為としての実態を備えている。売主側もB1を「老舗Aの者」と認識しており、個人名義であることのみをもって会社への帰属を否定することは、商法における非顕名主義の法理を誤解し、経験則に反する事実認定であるといえる。
結論
代表者が個人名義で契約しても、商行為であればその効力は会社に及ぶ。本件では会社への帰属を認めるべき特段の事情があり、原判決の判断には違法があるため破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
商法504条の非顕名主義を会社代表者の行為に適用した重要判例。答案では、会社名義を欠く契約の有効性や効果帰属が問われた際、当該行為が「本人のためにする商行為」にあたるかを認定した上で、相手方が顕名の欠如を理由に保護されるべき事情(504条但書)がないかを検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和40(オ)49 / 裁判年月日: 昭和41年10月18日 / 結論: 棄却
代理人が自己の名を示さず本人の名においてなした行為も代理行為として有効である。
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
事件番号: 昭和33(オ)800 / 裁判年月日: 昭和35年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人に信用を得させる目的で、単に見せるためだけに登記権利書と印鑑を貸与したに過ぎない場合、何ら代理権を授与したものとは認められず、表見代理の成立も否定される。 第1 事案の概要:被上告人は、訴外Dから「E株式会社に対する信用を得るために、単に同会社に見せるだけ」という目的で、本件土地の登記権利書と…