一、銀行の貸付金債権について、債務者に対し強制執行、仮差押等の手続が開始されたときは、なんらの通知、催告を要せず、右債務が当然期限の利益を失う旨の合意は、右貸付金債権を差し押えた者に対しても、その効力を対抗しうる。 二、手形の不渡異議申立手続に関し、手形債務者が支払銀行に預託する預託金の返還債務の履行期は、支払銀行が、手形交換所から、当該手形の不渡異議提供金の返還を受けた時に到来すべきものと解すべきである。 (一、について意見がある。)
一、銀行の貸付金債権についてされた期限の利益喪失約款の差押債権者に対する効力 二、手形の不渡異議申立手続に関し手形債務者が支払銀行に預託する預託金の返還債務の履行期
民法511条,民法646条,民訴法598条,手形法58条
判旨
銀行と債務者間の期限の利益喪失条項は差押債権者に対しても有効であり、不渡預託金返還債権を自働債権とする相殺も原則として認められる。
問題の所在(論点)
差押え後に相殺適状が生じた場合(無制限説の射程)において、(1)期限の利益喪失条項を差押債権者に対抗できるか、(2)不渡預託金という特殊な性質の債権について、銀行による相殺が許されるか(信義則違反の有無)。
規範
1. 債務者に信用悪化等の客観的事情が生じた際に債務の期限の利益を当然に喪失せしめる旨の合意(期限の利益喪失条項)は、差押債権者に対する関係においても効力を有する。 2. 手形不渡異議申立のための預託金返還債権は、特定の手形債権の支払担保や優先弁済を目的とするものではないため、銀行が当該債権と自らの貸付金債権を相殺することは、信義則に反しない限り認められる。
重要事実
銀行(被上告人)は債務者に対し貸付金債権を有しており、両者間には「債務者が差押等を受けたときは当然に期限の利益を失う」旨の特約があった。その後、債務者が不渡異議申立のために銀行に預託した預託金の返還請求権が、一般債権者(上告人)により差し押さえられた。銀行は、上記特約に基づき債務者の貸付金債務が期限の利益を喪失したとして、これを自働債権、預託金返還債権を受働債権とする相殺を主張した。なお、預託金返還債権の本来の弁済期は貸付金債権よりも先に到来していた。
あてはめ
1. 期限の利益喪失条項の有効性について、当裁判所の判例によれば、かかる合意は契約自由の原則および取引の実情から差押債権者に対しても有効である。本件でも債務者に差押えという客観的事実が生じたことで、銀行の貸付金債権は当然に期限が到来し、相殺適状が生じたといえる。 2. 預託金の性質について、これは手形交換所の手続委託のために預託されるものであり、手形債権者のために当然に確保されるべき性質のものではない。したがって、銀行がこれを他の一般債権と区別して相殺を制限すべき理由はなく、相殺を主張することは信義則上も許される。
結論
期限の利益喪失条項に基づく相殺は有効であり、銀行は差押債権者に対し相殺をもって対抗することができる。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
民法511条改正後の現行法下においても、差押え後に取得した債権でない限り相殺が可能であるとする「無制限説」を補完する重要な判例。特に、金融実務における「期限の利益喪失条項」が差押債権者に優先して相殺適状を創出する効力を認め、相殺の担保的機能を重視した点に実務上の意義がある。不渡預託金の相殺可否については、預託金の法的性質を論ずる際の参照指標となる。
事件番号: 昭和45(オ)125 / 裁判年月日: 昭和45年10月23日 / 結論: 棄却
いわゆる不渡異議申立提供金の預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することは許される。