手形割引依頼人が仮差押の申請を受けたときは通知催告がなくても銀行に対し割引手形の買戻債務を負い直ちに弁済する旨の銀行取引約定書による合意に基づいて手形割引がされた場合に、割引依頼人の債権者が割引依頼人の銀行に対する債権につき仮差押をし差押・転付命令を得たときは、銀行は、特段の事情のない限り、右仮差押の申請があつた時に割引依頼人に対し手形買戻請求権を取得しその弁済期が到来したものとして、右手彩買戻請求権をもつて被転付債権と相殺することができる。
手形割引依頼人が仮差押の申請を受けたことを手形買戻請求権の取得及び弁済期到来の事由とする銀行取引約定書による合意の第三者に対する効力
民法511条,民訴法598条1項,民訴法601条,民訴法750条2項,手形法第1編第6章,手形法第1編第7章
判旨
銀行取引約定に基づき、割引依頼人に対し仮差押の申請があったことを理由に当然発生する手形買戻請求権を自働債権とする相殺は、差押債権者に対しても有効である。
問題の所在(論点)
割引依頼人に仮差押がなされたことを条件に、手形満期前であっても当然に割引手形買戻請求権が発生し相殺適状を生じさせる旨の特約(期限の利益喪失条項)は、預金債権を差し押さえた第三者に対しても効力を有するか。民法511条(差押えを受けた債権の相殺禁止)との関係が問題となる。
規範
1. 銀行取引において、債務者の信用悪化を示す客観的事情が生じた場合に債務の期限の利益を喪失させ、預金債権等と直ちに相殺適状を生じさせる合意は、差押債権者に対しても有効である。 2. 手形割引は割引依頼人への信用供与の側面を有するため、仮差押等の申請を期限の利益喪失事由(買戻請求権の当然発生事由)とすることは、早期かつ安全な資金回収を目的とする合理的な慣習として許容される。
重要事実
上告人は、債務者D社が被上告人(銀行)に対して有する預託金返還請求権を仮差押えし、後に差押・転付命令を得た。一方、D社と被上告人の間の銀行取引約定には、仮差押の申請があった時は通知なく当然に割引手形の買戻債務を負い(5条、6条)、諸預け金といつでも相殺できる(7条)旨の定めがあった。被上告人は、上告人による仮差押決定の送達を受けたため、約定に基づき発生した手形買戻請求権を自働債権とし、預託金返還請求権を受働債権として相殺した。
あてはめ
1. 本件約定は、仮差押申請という信用悪化の定型的徴候を事由として買戻請求権を当然発生させるものであり、銀行取引上の合理性・慣習に合致する。 2. 本件手形買戻請求権は、仮差押決定が被上告人に送達されその効力が生じる「以前」に、約定の条件(仮差押の申請)充足により既に被上告人が取得していたものといえる。 3. したがって、差押え以前に取得した債権を自働債権とする相殺であり、第三者である上告人に対しても有効である。
結論
被上告人による相殺は有効であり、受働債権である預託金返還請求権は消滅した。上告人の請求は認められない。
実務上の射程
銀行取引約定書に基づく「当然喪失条項」の対抗力を認めた重要判例。仮差押の『申請』時点で債権を取得したと構成することで、差押えとの優劣関係において銀行側を保護する。民法511条の解釈において、制限説(差押えより前に自働債権を取得していれば相殺可能)を前提とした実務の指針となる。
事件番号: 昭和42(オ)900 / 裁判年月日: 昭和45年8月20日 / 結論: 棄却
一、銀行の貸付金債権について、債務者に対し強制執行、仮差押等の手続が開始されたときは、なんらの通知、催告を要せず、右債務が当然期限の利益を失う旨の合意は、右貸付金債権を差し押えた者に対しても、その効力を対抗しうる。 二、手形の不渡異議申立手続に関し、手形債務者が支払銀行に預託する預託金の返還債務の履行期は、支払銀行が、…
事件番号: 昭和41(オ)1236 / 裁判年月日: 昭和45年11月6日 / 結論: 破棄自判
(省略)