いわゆる不渡異議申立提供金の預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することは許される。
いわゆる不渡異議申立提供金の預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合と支払銀行が手形債務者に対して有する反対債権をもつてする相殺の許否
民法646条1項,民法511条,手形法38条
判旨
債権が差し押さえられた場合、差押前に取得した自働債権であれば、受働債権との弁済期の前後を問わず相殺適状に達すれば相殺できる。また、不渡異議申立提供金の預託金返還請求権を受働債権とする相殺も、委任契約の趣旨に反せず有効である。
問題の所在(論点)
1. 債権が差し押さえられた場合において、自働債権と受働債権の弁済期の先後が相殺の可否に影響するか(旧民法511条の解釈)。2. 不渡異議申立提供金の預託金返還請求権を受働債権とする相殺は、その性質や委任契約の趣旨により制限されるか。
規範
1. 差押えを受けた第三債務者は、差押え前に取得した自働債権を有する場合、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達すれば、差押後であっても相殺をもって差押債権者に対抗できる。2. 不渡異議申立提供金は、支払資力を証し異議申立の濫用を防止する趣旨の預託金であり、特定の手形債権の支払を担保するものではない。したがって、支払銀行が預託金返還請求権について相殺の期待を持つことは妨げられず、相殺は委任契約に反しない。
重要事実
手形債務者である訴外D社は、銀行取引停止処分を免れるため、支払銀行である被上告金庫に対し、不渡異議申立提供金として25万円を預託した。上告人は、D社の金庫に対する当該預託金返還請求権を差し押さえた。これに対し金庫は、差押前より有していたD社に対する貸金債権を自働債権として、本件預託金返還請求権との相殺を主張した。上告人は、自働債権と受働債権の弁済期の前後関係や、預託金の性質上の相殺禁止を理由に相殺の効力を争った。
あてはめ
1. 差押債権者と第三債務者の利益調整の観点から、差押前に取得した自働債権に基づく相殺の期待は保護されるべきである。よって、弁済期の前後を問わず、相殺適状に達すれば相殺は有効である(無制限説)。2. 本件預託金は異議申立の濫用防止を目的とするもので、手形債権者への支払担保ではない。金庫に相殺の期待を認めない特別の事情はなく、相殺は委任契約上の義務に違反するものでもない。したがって、金庫による相殺は有効に成立し、預託金返還債務は消滅したといえる。
結論
被上告人(銀行)による相殺は有効であり、差押債権者である上告人は預託金返還請求権を行使できない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
民法511条の解釈に関し、いわゆる「無制限説」を確立した昭和45年大法廷判決の流れを汲む実務上の重要判例。預託金については、特定の目的(不渡異議)がある場合でも、当然には相殺禁止の特約や性質上の相殺制限は認められないことを示しており、銀行実務における相殺の抗弁を構成する際の基礎となる。
事件番号: 昭和43(オ)778 / 裁判年月日: 昭和45年6月18日 / 結論: 棄却
手形の不渡異議申立手続を委託した手形債務者から異議申立提供金に見合う資金として支払銀行に交付された預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することが、預託金返還請求権の性質上制限されるものと解すべき理由はない。