原判示の事実関係のもとにおいて、銀行が、従来何らの取引関係もなかつた相手方に対し、金額四二万〇、六四〇円の不渡手形を返還するとともに、新規に金四二万円を貸し付ける旨の契約をしたと認定することは経験則に違背し、その判断には理由不備の違法がある。
銀行による新規貸付契約が成立した旨の事実認定に経験則違背・理由不備の違法があるとされた事例
民法587条,民訴法185条,民訴法395条1項6号
判旨
銀行取引において、資金繰りに窮している新規取引先に対し、定期預金額の倍額を無担保に近い状態で貸し付けることは、特段の事情がない限り経験則に反する。また、貸付の合意を裏付ける客観的な証拠を欠く状況で契約成立を認めることは、事実認定として合理性を欠く。
問題の所在(論点)
資金繰りに窮した新規取引先に対し、銀行が預金額の倍額を貸し付けるという異例の合意について、特段の事情がないまま経験則に基づきその成立を否定できるか。また、客観的証拠との整合性が欠ける事実認定の適法性が問われた。
規範
契約の成立が争われる場合、当該取引が通常行われる経済的合理性(経験則)に合致するか、及び契約書等の客観的証拠が存在するかを慎重に検討すべきである。特に、銀行が貸付の安全性・確実性を放棄するような異例の取引については、それを正当化する「特段の事情」がない限り、契約の成立を肯定することは経験則上許されない。
重要事実
銀行(上告人)と会社(被上告人)との間で、42万円の新規貸付契約の成否が争われた。会社側は、不渡手形の処理に関連して新規貸付の合意があったと主張し、原審はこれを認めた。しかし、事案当時の会社は資金繰りに窮しており、銀行とは新規の取引関係にすぎなかった。また、銀行が交付した計算書は、不渡手形の金額を意味すると解するのが自然な内容であり、新規貸付を裏付ける契約書等も作成されていなかった。
あてはめ
第一に、銀行が一方では新規貸付を拒否して不渡手形を返還しながら、同日に貸付額を記載した計算書を交付することは極めて不自然であり、計算書の記載は不渡手形金額の内金を指すと解するのが自然的である。第二に、資金繰りに窮した新規取引先に対し、定期預金の倍額を貸し付けることは、安全性を重視する銀行の行動として「特段の事情」がない限りあり得ない。第三に、貸付金の分割弁済の具体的合意や契約書等の存在も認められない。したがって、会社側の主観的な出捐事実のみを捉えて契約成立を認めた原審の判断は、銀行側の立場を無視した一方的なものである。
結論
原審の事実認定には経験則違背および理由不備の違法があり、新規貸付契約の成立を認めることはできないため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
契約の成否が争点となる事案において、当事者の一方の言動や主観的な期待だけでなく、取引の安全性や経済的合理性といった「銀行としての経験則」を主張の柱とする際の指針となる。特に「特段の事情」がない限り異例の取引は認められないという規範は、事実認定の枠組みとして実務上重要である。
事件番号: 昭和42(オ)747 / 裁判年月日: 昭和45年6月24日 / 結論: 破棄差戻
原告が、連続した裏書の記載のある手形を所持し、その手形に基づき手形金の請求をしている場合には、当然に、手形法一六条一項の適用を求める主張があるものと解すべきである。