甲が乙丙丁の甲に対する昭和三八年五月六日付一一〇万円(ただし、乙丙は各四〇万円、丁は三〇万円)、弁済期同三九年五月五日、利息日歩二銭八厘毎月末日払とする消費貸借債権の存在しないことを主張し、右債権の不存在確認、右債権を被担保債権とする抵当権の設定登記の抹消登記手続などを求め、乙らが右債権は存在する旨主張したのに対し、裁判所が、戊が己から借り受けた元利金が昭和三八年五月初頃一一〇万円に達し、その頃戊、己、甲、乙らが協議し、右債権について、乙らを債権者(ただし、内訳は前記のとおり)とし甲を債務者とすること、右債権を担保するため右抵当権を設定することとし、その頃右設定登記が経由された旨認定した場合、甲は右債権を消費貸借債権と表示しているが、結局、甲がその不存在を、乙らがその存在を、それぞれ主張した債権と裁判所が存在すると認定した債権とは同一性が認められるから、弁論主義の違背はない。
抵当権の被担保債権に関する主張と認定との間に同一性が認められ弁論主義の違背がないとされた事例
民訴法186条
判旨
当事者が主張する債権の性質が消費貸借であるか否かという表示において、裁判所の認定と不一致があったとしても、それが当該抵当権の被担保債権という同一の紛争を指すものである限り、弁論主義に違反しない。
問題の所在(論点)
当事者が特定の「消費貸借債権」の不存在を主張している場合に、裁判所がそれとは異なる発生原因による債権の存在を認定することが、弁論主義に違反するか。
規範
弁論主義の適用範囲において、当事者の主張と裁判所の認定が主要事実の細部(債権の発生原因や性質の法的評価等)において必ずしも完全に一致していなくとも、紛争の対象となっている権利関係の同一性が認められ、相手方に不測の不利益を与えない範囲であれば、弁論主義違反(民事訴訟法旧186条、現246条・148条等参照)には当たらない。
重要事実
事件番号: 昭和38(オ)237 / 裁判年月日: 昭和40年3月19日 / 結論: 棄却
公正証書には担保物件として土地および建物を供した旨の記載があるのに、その作成を嘱託した委任状には単に建物を供した旨の記載があるにすぎない場合にも、真実該公正証書記載どおりに作成すべき権限を有していたのに土地の記載を脱落したものであることが明らかなときは、右瑕疵は該公正証書の無効をきたす重大なものとは解されない。
上告人(原告)は、被上告人ら(被告)に対し、本件抵当権の被担保債権である「消費貸借債権」の不存在確認等を求めて提訴した。これに対し、原審は、第三者Dの債務を整理し、債権者を被告ら、債務者を原告とする新たな債権合意が成立した事実を認定した。上告人は、自身が主張した債権の性質(消費貸借)と裁判所の認定(三者間合意に基づく債務)が異なるため、裁判所が当事者の主張しない事実を基礎としたのは弁論主義違反であると主張した。
あてはめ
上告人は不存在を主張する債権を「消費貸借債権」と表示しており、原審の認定した債権発生の経緯(三者間合意)とは完全には一致しない。しかし、紛争の実体は「本件不動産に設定された抵当権の被担保債権である一定の債権」の存否にある。原告は債権の不存在を主張し、被告は存在を主張しており、裁判所もその被担保債権が存在すると認定したものである。したがって、債権の法的性質の表示に差異があっても、対象となる債権の同一性に欠けるところはない。
結論
原審の認定は弁論主義に違反しない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
訴訟物の特定や主要事実の認定において、当事者が用いた法的構成(消費貸借等)に拘束されすぎず、紛争の対象(本件では抵当権の被担保債権)が同一であれば、実態に即した事実認定が可能であることを示す。答案上は、主張と認定の「食い違い」が弁論主義違反となるかの限界を論じる際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和43(オ)906 / 裁判年月日: 昭和44年7月8日 / 結論: 破棄差戻
確定判決に基づいて強制執行がされた場合においても、右判決の成立過程において、原告が被告の権利を害する意図のもとに、作為または不作為によつて被告の訴訟手続に対する関与を妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺圏する等の不正な行為を行ない、その結果、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得してこれを執行し、被告に損害を…
事件番号: 昭和47(オ)1011 / 裁判年月日: 昭和48年6月14日 / 結論: 棄却
債務者が商法五二二条所定の消滅時効のみを援用することが明らかな場合には、たとえ債権が弁済期から一〇年を経過していても、民法一六七条所定の時効につき判断することを要しない。
事件番号: 昭和29(オ)738 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書の思想内容ではなく、その存在自体や記載文字・印影の形状を証拠とする場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を証明する必要はない。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称するDが、上告人から預かっていた印章を用いて根抵当権設定契約書や約束手形等(乙各号証)を作成した。原審は、これら私文書の成立の…
事件番号: 昭和38(オ)1093 / 裁判年月日: 昭和39年6月4日 / 結論: 棄却
登記申請書には抵当権設定と表示されていて「根抵当権」なる文言が用いられていなくても、同申請書に当該抵当権の被担保債権額として元本極度額金何円なる記載がある場合、右申請書によつてなされた根抵当権設定登記は有効である。