約束手形の所持人が、その振出人に対する手形債権に基づき、右振出人と第三者との間の行為を詐害行為としてその取消を求める訴訟において、右所持人への裏書の原因関係上の債務につき消滅時効が完成していても、その債務の債務者が時効を援用していないかぎり、被告たち受益者は、右債務の消滅を主張して、右所持人の権利の行使を拒むことができない。
約束手形所持人の振出人に対する手形債権に基づく詐害行為取消請求と手形裏書の原因関係の消滅時効
民法145条,民法424条,手形法77条,手形法17条
判旨
手形所持人の前手に対する原因関係上の債権が消滅時効にかかっている場合であっても、債務者が時効を援用していない限り、手形債務者は当該債権の消滅を理由に手形金の支払を拒絶することはできない。
問題の所在(論点)
手形所持人の前手に対する原因債権が消滅時効期間を経過している場合、手形債務者は、当該原因債務者が時効を援用していないにもかかわらず、原因債権の消滅を理由に支払を拒絶できるか。手形抗弁(人的抗弁)としての原因関係の消滅が認められるかが問われた。
規範
消滅時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。また、時効を援用し得る者は原則として債務者、保証人等、時効の完成により直接利益を受ける者に限られる。したがって、手形の裏書譲渡の原因関係となった債権が時効期間を経過していても、その債務者が時効を援用していない限り、第三者である手形債務者が当該債権の消滅を主張することは許されない。
重要事実
被上告人(手形所持人)らは、訴外D社に対する売掛代金債権および貸金債権の支払のために、D社から本件約束手形の裏書譲渡を受けた。手形振出人の承継人である上告人は、被上告人らのD社に対する上記原因債権についてすでに消滅時効が完成しており、原因関係が消滅したため、被上告人らの手形上の権利行使は許されないと主張した。しかし、債務者であるD社が当該債権につき消滅時効を援用した事実は立証されていなかった。
あてはめ
本件において、被上告人らが有するD社に対する原因債権につき、債務者であるD社が消滅時効を援用した事実は認められない。時効の完成による利益を享受するか否かは債務者の意思に委ねられるべきであり、援用がない以上、債権は依然として有効に存在するものとして扱われる。したがって、原因債権が消滅したことを前提とする上告人の主張は、その前提を欠くものであり、手形債務者による支払拒絶の根拠とはなり得ない。
結論
債務者が原因債権の消滅時効を援用していない以上、手形債務者は原因債権の消滅を主張して支払を拒絶することはできない。上告を棄却する。
実務上の射程
原因関係の不存在・消滅を理由とする人的抗弁を主張する場合、その前提となる原因債権の消滅が確定している必要があることを示す。時効完成の事実だけでは足りず、援用という法的要件の充足が必要であることを明確にしている。手形法上、第三者が他人の債務の時効を援用して権利行使を阻止することの困難さを確認する例として有用である。
事件番号: 昭和38(オ)799 / 裁判年月日: 昭和40年4月20日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】将来債権の譲渡契約が、将来の取引で発生する債権について譲渡の予約をなし、更生不能等の条件成就時に完結権を行使する趣旨である場合、債権発生後に譲渡の効力が生じ得る。この場合、当該譲渡行為は債務者の一般担保を減少させるものとして、詐害行為取消権の対象となり得る。 第1 事案の概要:債務者Dは、債権者で…