係争家屋の所有権を贈与により取得したとして贈与者の相続人らに対し贈与を原因とする所有権移転登記を求めたのに対し、裁判所が、右贈与の主張は死因贈与の主張を包含するものと解して、死因贈与による所有権移転を認定しても、当事者の主張しない事実を認定したものとはいえない。
贈与の主張に対し死因贈与を認定することの適否
民訴法186条,民法554条
判旨
民事訴訟において、当事者が「贈与」により権利を取得した旨を主張している場合、特段の事情がない限り、その主張には「死因贈与」による取得の主張も含まれているものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
当事者が単に「贈与」により所有権を取得したと主張している場合に、裁判所が「死因贈与」による取得を認定することは、弁論主義が禁じる「当事者の主張しない事実の認定」にあたるか。
規範
当事者の主張の解釈にあたっては、弁論の全趣旨を考慮し、申立ての趣旨及び原因を合理的に解釈すべきである。原因において「贈与」という包括的な概念が主張されている場合、実態として死後に効力が発生する態様の贈与であっても、それは贈与の一種である以上、格別の事情がない限り死因贈与の主張も包含される。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)らの先代であるDから、本件不動産の所有権を「贈与」により取得したと主張して、所有権移転登記手続等を求めた。原審は、この主張を死因贈与の主張を含むものと解釈した上で、証拠に基づき死因贈与の事実を認定した。これに対し、上告人側は、死因贈与の認定は当事者の主張しない事実を認定したものであり、弁論主義に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和36(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和37年4月27日 / 結論: 棄却
上告理由として原審に提出した準備書面を引用するというだけの部分は、適式な上告理由書とならない。(昭和二八年一一月一一日大法廷判決、民集七巻一一号一一九三頁参照)
あてはめ
被上告人が贈与により本件不動産の所有権を取得したという主張は、原因において権利発生の基礎となる法的性質を包括的に示すものである。死因贈与(民法554条)は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与であり、性質上は贈与契約の一種である。したがって、弁論の全趣旨に照らせば、単なる贈与の主張の中に死因贈与の主張が含まれていると解釈することは合理的な範囲内であり、当事者の予期しない不意打ちとはいえない。
結論
贈与による取得の主張には死因贈与による取得の主張も含まれると解されるため、原審が死因贈与を認定したことに弁論主義違反の違法はない。
実務上の射程
弁論主義の第一命題(主張責任)に関し、裁判所による当事者意思の合理的解釈の許容範囲を示すものである。実務上、原因において性質の異なる法的構成(例:売買と譲渡担保など)が含まれるかどうかが問題となる場面で、贈与と死因贈与のように包含関係や親和性が高い場合には、一方の主張で足りるとする論拠になり得る。答案上は、主張の解釈の限界を論ずる際の補強として活用できる。
事件番号: 昭和42(オ)560 / 裁判年月日: 昭和43年6月6日 / 結論: 棄却
一、遺贈の承認および放棄に関する規定は死因贈与に準用されない。 二、甲の所有していた不動産について、その相続人でない乙に相続を原因とする所有権移転登記がされ、乙から丙に贈与を原因とする所有権移転登記がされているが、実体上は甲から丙に右不動産が死因贈与され、現在丙がその所有者である場合には、甲の相続人が乙および丙に対し右…
事件番号: 昭和24(オ)120 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
当事者が贈与による所有権の取得を主張する場合、裁判所が右主張に基いて贈与の事実を認定している以上、贈与者がその物の所有権を取得するに至つた経過について、当事者の主張と異なる認定をしていても、当事者の申し立てない事項について裁判したものとはいえない。
事件番号: 昭和46(オ)86 / 裁判年月日: 昭和46年11月19日 / 結論: 破棄差戻
山林の買入を委託し、その買入代金に当てるための資金を手交した経緯に関し、判示のような事情がある場合には、右金員の交付を単なる貸金であるとして、買入委託契約の成立を否定することは、経験則に反し、許されない。