売買の目的である土地の一部について、売主がその処分権を取得することができなくなつても、残余の部分については経験則上契約の効力に影響を及ぼすものでない等判示のような事情にあるときには、右契約が、目的土地の一部について売主が処分権を取得しないときは、売買契約が解除される旨の解除条件付契約である旨の認定は、経験則に反する。
事実認定に経験則違反の違法があるものとされた事例
民訴法185条,民訴法394条
判旨
売買の目的物が可分である場合、その一部に履行不能等が生じても、特段の事情がない限り、経験則上、残余の部分について契約の効力は維持されると解すべきである。
問題の所在(論点)
契約の目的物の一部が履行不能となった場合に、そのことが当然に契約全体の失効(又は全部解除の可否)を招くのか、あるいは残余の部分について契約の効力が維持されるのかという契約の可分性と効力範囲が問題となる。
規範
売買契約の目的物が可分である場合、その一部について債務の履行が不可能となったとしても、当然に契約全部が失効するわけではない。契約全体が失効するか否かは、①履行不能となった部分を除いた残余の部分のみでは買主が契約の目的を達することができないこと、又は②売主が残余の部分のみを売却する意思がないこと等の事情があり、かつ、それらの事情が当事者双方に了解されていたか否かによって判断すべきである。これら特段の事情がない限り、経験則上、残余の部分に関する契約の効力に影響を及ぼさない。
重要事実
上告人(買主)と被上告人(売主)は、原野、宅地、田の合計70坪を目的とする売買契約を締結した。原審は、本件契約は被上告人が第三者から田の部分の所有権を取得して宅地にできないときは解除するという解除条件付契約であり、当該条件が成就したため契約は全部失効したと認定した。しかし、田の部分は全体の一部にすぎず、これを欠いても土地利用の目的を達し得ない等の事情は審理されていなかった。
あてはめ
本件では、売買の対象は70坪の土地であり、その内訳は原野、宅地、田の各一部から成る可分なものである。原審が認定した解除条件(田の取得不能による失効)を裏付ける明示的な証拠はない。また、田の部分を除いた残存部分が僅少であるとか、残存部分のみでは上告人の購入目的が達成できないといった事情、あるいは被上告人が田を含まない売却を拒絶する意図があった等の事情も認定されていない。したがって、目的物が可分である以上、田の部分が履行不能となっても、特段の事情がない限り、経験則上は残余の部分についての契約の効力は維持される余地がある。
結論
契約の目的物が可分である場合、一部の履行不能によって当然に契約全部が失効するとはいえず、残余の部分の契約の有効性を否定した原判決には審理不尽・経験則違反の違法があるとして破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
契約の一部が履行不能となった場合や、一部に無効事由がある場合(民法111条類推適用等)において、契約全体の効力を論ずる際の判断枠組みとして活用できる。当事者の主観的意図(目的達成の可否)や客観的な目的物の性質(可分性)を総合考慮する手法は、現在の契約解釈の実務にも通ずるものである。
事件番号: 昭和49(オ)1152 / 裁判年月日: 昭和51年2月13日 / 結論: 破棄差戻
売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は、民法五六一条により右契約を解除した場合でも、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならない。