民法一一二条の表見代理が成立するためには、相手方が、代理権の消滅する前に代理人と取引をしたことがあることを要するものではなく、かような事実は、同条所定の相手方の善意無過失に関する認定のための一資料となるにとどまるものと解すべきである。
民法一一二条の表見代理が成立するためには相手方がかつて当該代理人と取引をしたことがあることを要するか
民法112条
判旨
民法112条(代理権消滅後の表見代理)が成立するためには、相手方が代理権消滅前に代理人と取引をした経験があることは不要である。また、同条は過去に当該代理権が存在したことを前提とするが、名称冒用であっても実質的に過去の代理権の範囲内であれば適用される。
問題の所在(論点)
民法112条(代理権消滅後の表見代理)の成立要件として、相手方が「代理権の消滅前」に当該代理人と取引をしたことがある必要があるか。また、過去に代理権が存在したといえるか。
規範
民法112条の表見代理が成立するためには、過去に当該代理権が存在したことを要するが、相手方が代理権の消滅前に当該代理人と直接取引をしたことがあることを要しない。取引経験の有無は、相手方の善意無過失を判断するための一資料にすぎない。
重要事実
上告会社(電気水道工事等の請負業者)のD支店長であったEは、昭和36年6月の支店廃止に伴いその地位を失った。しかし、Eは支店廃止後の昭和37年6月、依然としてD支店長であると称して、被上告人との間で請負契約を締結した。被上告人は以前にEと取引した事実はなかったが、Eに代理権があると信じて本件契約を締結した。
あてはめ
Eは過去にD支店長の地位にあり、請負契約を締結する代理権を有していたといえる。また、被上告人が過去にEと取引したことがないとしても、その一事をもって112条の適用が否定されるものではない。本件では、支店廃止という代理権消滅の事実を知らず、Eが依然として支店長であると信じた被上告人の誤信に相当な理由(善意無過失)があると認められる。
結論
民法112条の成立に過去の取引経験は不要であり、上告会社は本件請負契約について表見代理責任を負う。上告棄却。
実務上の射程
112条の適用範囲を「継続的取引関係」に限定しないことを明示した重要判例である。答案上、相手方が新規の取引先である場合に本判例を引用して112条の適用を肯定し、その後の「過失」の判断において取引経験の不在を評価要素として組み込むのが定石となる。
事件番号: 昭和32(オ)786 / 裁判年月日: 昭和35年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権譲渡が行われた場合であっても、譲渡通知の効力に疑義があり、債務者が依然として譲渡人を債権者であると信じて弁済したときは、債権の準占有者(現:受領権限がある外観を有する者)に対する弁済として有効となり得る。 第1 事案の概要:債権者である訴外D建設株式会社は、上告人(譲受人)に対し工事代金債権を…