一、不動産売買契約の媒介を委託する契約に、報酬を支払う約定があつても、受任者の利益を目的とする委任契約とはいえないから、依頼者は、民法第六五一条第一項に基づき右契約を解除することができる。 二、民法第六五一条第二項の「不利ナル時期」とは、その委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被るべき時期と解すべく、事務処理と異なる報酬を喪失するにすぎない場合を含まないものというべきである。
一、不動産売買契約の媒介を委託する契約に報酬約定がある場合の民法第六五一条第一項の解除権 二、民法第六五一条第二項の「不利ナル時期」の意義
民法651条1項,民法651条2項
判旨
有償の準委任契約においても、報酬特約があるだけでは受任者の利益を目的とする契約とはいえず、委任者はいつでも契約を解除できる。また、民法651条2項の「不利な時期」とは事務処理自体に関する不利益を指し、報酬の喪失はこれに含まれない。
問題の所在(論点)
1. 報酬特約のある準委任契約が「受任者の利益をも目的とする委任」として解除が制限されるか。2. 報酬を喪失する時期の解除が、民法651条2項の「不利な時期」にあたるか。3. 委任解除が民法130条の条件成就の妨害にあたるか。
規範
1. 委任契約の解除権(民法651条1項)は原則として自由に行使できるが、委任事務の処理が受任者の利益をも目的とするときは解除権行使が制限される。ただし、単に報酬の特約があるのみでは受任者の利益を目的とした委任とはいえない。2. 同条2項の「不利な時期」とは、委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被るべき時期を指し、事務処理とは別の報酬の喪失は含まない。3. 条件成就の妨害(130条)の適用には、行為が信義則に反すること及び行為と条件不成就との間の因果関係が必要である。
重要事実
被上告人(委任者)は上告人(受任者)に対し、物件の買手を探し売買契約を成立させる仲介事務を委託した(有償準委任契約)。報酬は売買成立・代金納入を停止条件として発生する合意であったが、期限到来前に被上告人が一方的に契約を解除した。上告人は、受任者の利益を目的とする契約であるから解除は無効であると主張し、また解除が条件成就を妨げたとして、報酬相当額を請求した。
あてはめ
1. 本件は単に報酬の特約があるのみであり、他に受任者の利益を目的としている主張立証がないため、民法651条1項に基づきいつでも解除できる。2. 解除により上告人が報酬を得られなくなることは、事務処理そのものの遂行に伴う不利益ではなく、報酬の喪失にすぎないため「不利な時期」にはあたらない。3. 本件解除は正当な権利行使であり信義則違反とはいえず、また解除がなくても売買契約が成立する見込みもなかったため、因果関係も認められない。したがって130条の適用はない。
結論
本件解除は有効であり、上告人の報酬請求は認められない。
実務上の射程
有償委任における解除の自由と損害賠償の範囲を画する重要判例である。答案上、報酬喪失が「不利な時期」の損害に含まれないことを明示し、契約が受任者の利益を目的としている(例:債権回収の委任等)か否かを事実認定で分ける際に用いる。
事件番号: 昭和26(オ)302 / 裁判年月日: 昭和29年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】条件の成就によって利益を受けるべき者が、相手方の妨害によってその条件の成就を妨げられたと主張して損害賠償を請求する場合、相手方が故意に条件の成就を妨げたという事実が認められない限り、当該請求は認められない。 第1 事案の概要:上告人(報酬請求権者)は、被上告人との間で特定の条件が成就した場合に報酬…