町長が公職選挙法施行令第五二条第一項所定の証明権限により作成した不在事由証明書であることに信頼して不在者投票を許容したものであつても、右証明書自在に不在事由を確認するに足りない記載の不備その他の瑕疵の存するかぎり、右不在者投票請求の受理は違法たるを免れない。
瑕疵ある不在事由証明書による不在者投票請求の受理を違法と認めた事例
公職選挙法49条,同法施行令50条,同法施行令52条
判旨
不在者投票の事由を証する書面に記載の不備等の瑕疵がある場合、選挙管理委員会は形式的審査権限に基づきその請求を受理すべきではなく、これを受理してなされた投票は管理の違法を免れない。
問題の所在(論点)
不在者投票における証明書の不備が投票管理の違法(公職選挙法205条1項)を構成するか。また、選挙管理委員会が有する審査権限の範囲とその限界が問題となる。
規範
不在者投票の事由(公職選挙法49条各号)の存否は、提出された証明書の記載内容に基づく形式的審査によって判断されるべきである。すなわち、証明書自体に不在事由を確認するに足りない記載の不備や瑕疵がある限り、選挙管理委員会がその発行を信頼して受理したとしても、当該投票の管理は違法となる。また、同法205条1項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞」の判断においては、違法な受理がなければ当該選挙人が棄権していた可能性をも考慮し、当選人の得票状況に照らして当落に影響し得るかを決すべきである。
重要事実
町長選挙において、町長が発行した不在事由証明書に基づき多数の不在者投票が受理された。しかし、それら証明書のうち16通は、病気や出産等を事由としながら場所の記載がなく(法49条2号の要件確認不能)、かつ歩行困難を理由とする場合に必要とされる医師等の証明(施行令52条1項3号)を欠いていた。また、別の160通は、旅行を事由としながら目的や「やむを得ない用務」であることの記載を欠き、町職員による補足説明もなされていなかった。これらの瑕疵ある証明書による投票計178票が、当選人の得票順位や点差に鑑み、選挙結果を左右する可能性があるとして選挙無効が争われた。
あてはめ
まず、病気等を事由とする16名分の証明書は、滞在場所の記載を欠くため法49条2号の事由を確認できず、また医師等の証明がないため同条3号の証明としても不適格であり、証明権者を誤った瑕疵があるといえる。次に、旅行を事由とする160名分の証明書は、単に旅行中であるとするのみで、投票を困難にする「やむを得ない用務」等の事情を推認させる記載がなく、法49条2号の事由を証するものとして不十分である。選管委員長の審査は、証明書の真実性まで調査する実質的審査権限まではないものの、記載内容から法定事由を確認する形式的審査を行うべきであり、本件のような記載不備がある以上、受理したことは違法である。これら178票の違法受理は、もし拒否されていれば棄権していた可能性も否定できず、上位当選者の当落を左右し得たといえる。
結論
不在者投票の管理は違法であり、その違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるため、当該選挙は無効である。
実務上の射程
行政不服審査や選挙無効訴訟において、不在者投票の手続的瑕疵が「選挙の規定に違反」するかを判断する際のリーディングケースである。選管の審査権限が「形式的審査」に限定されることを逆手に取り、書面上の不備のみをもって管理の違法を導く論法として活用できる。
事件番号: 昭和41(行ツ)75 / 裁判年月日: 昭和42年1月31日 / 結論: 棄却
記載事項に不備不実がある申請書によつた補充選挙人名簿登録申請でも、それが申請者の申請意思の表示と認めうるものであるならば無効と解すべきではなく、そのような申請に基づき調製された補充選挙人名簿でも、有効である。
事件番号: 昭和23(オ)141 / 裁判年月日: 昭和24年4月12日 / 結論: 棄却
一 県会議員選挙と市会議員選挙とが同時に行われた場合でも、県会議員選挙の効力に関し異議のある者は、市選挙管理委員会にこれを申し立てるべきでなく、県選挙管理委員会に申し立てなければならない。 二 投票箱運送中に鍵が破損したため、投票が散乱した事実があつたとしても、それだけで直ちに選挙の公正が害されたものとし選挙を無効とす…
事件番号: 昭和44(行ツ)2 / 裁判年月日: 昭和45年7月16日 / 結論: 棄却
選挙人にあらかじめ配布された入場券が住所不明として返戻された場合において、当該選挙人であるとして入場券を持参しない者が投票に来たときは、投票事務従事者において「その理由をただし」、また、本人であることの確認には生年月日の対照をもつてすることが、選挙事務の取扱いとして至当というべきであるが、これを欠いたからといつて、その…
事件番号: 昭和40(行ツ)110 / 裁判年月日: 昭和41年4月28日 / 結論: 棄却
不在者投票の違法管理が選挙の結果に異動を及ぼす虞れの認められる場合に、右不在者投票に関する選挙手続のみを無効とし、その範囲で選挙の一部無効による再選挙を行なうことは許されない。