公職選挙法施行令第五二条所定の証明書を徴しないで不在者投票のため投票用紙および投票用封筒を交付した違法は選挙無効の原因となり得る。
不在者投票の投票用紙および投票用紙封筒の交付の違法と選挙の効力
公職選挙法49条,公職選挙法205条1項,公職選挙法209条の2,公職選挙法施行令52条
判旨
不在者投票の手続に重大な違法がある場合、それは単なる「帰属不明の無効投票」の問題にとどまらず、選挙の管理執行に関する規定違反として選挙の効力自体を左右し得る。裁判所は、潜在的無効投票の数にかかわらず、当該違法が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるかを判断すべきである。
問題の所在(論点)
不在者投票の管理執行手続に違法がある場合、公職選挙法209条の2が規定する「当選の効力に関する争訟(潜在的無効投票の処理)」として処理すべきか、それとも選挙全体の効力を問う選挙無効原因(同法205条1項)として審理すべきか。
規範
公職選挙法49条等の不在者投票制度は、選挙の自由公正を確保するための厳重な規定であり、その管理執行に関する規定違反がある場合、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反することがあるとき」に該当する。この場合、裁判所は、当該違法によって「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるかどうかを判断すべきであり、投票数が判明しているからといって直ちに選挙無効を否定することはできない。
重要事実
上告人は、本件選挙の不在者投票において、法定の証明書を徴さずに投票用紙および投票用封筒を交付した等の違法があると主張して、選挙無効を求めた。原審は、投票数や請求者数が判明している場合には、手続に違法があっても「潜在的無効投票」となるだけで選挙無効の原因にはならないとして、事実関係を審理せずに請求を棄却した。
あてはめ
不在者投票は選挙の自由公正を害する恐れがあるため、手続の厳格な遵守が求められる。法定の証明書を欠く交付等の違法があれば、本来投票できない者が投票し、あるいは当日棄権したはずの者が投票した可能性が生じる。また、不在者投票と当日投票では候補者の選択が異なる可能性もある。したがって、このような管理執行上の違法は、単なる帰属不明の無効投票として扱うのではなく、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある重大な規定違反となり得る。
結論
不在者投票の手続違法が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないとは断定できないため、原審が事実関係を審理せず請求を退けたのは法令解釈の誤りである。原判決を破棄し、差戻す。
実務上の射程
選挙無効訴訟(204条)と当選無効訴訟(206条)の峻別に資する判例である。特に「選挙の管理執行に関する規定違反」がある場合には、個々の投票の有効性以前に、選挙の公正が害されたことによる「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ(205条1項)」を検討すべきとする枠組みを示す際に用いる。
事件番号: 昭和32(オ)509 / 裁判年月日: 昭和32年8月8日 / 結論: 棄却
公職選挙法第二〇二条以下に規定する手続によらないで選挙または当選の無効確認を求める訴は不敵法である。