甲が乙に対して振り出した約束手形上に、丙が当該手形金の支払を負担しないことを甲に約して手形保証としての署名をした場合において、乙が右の事情を知つているかぎり、丙は乙に対し手形金の支払を拒むことができる。
振出人との間で手形債務を負担しないことを約して手形保証をした者の受取人に対する抗弁の対抗
手形法17条,手形法30条
判旨
手形署名が振出人と共に支払を負担する真実の意思なくなされたものであり、受取人がその事情を知っている場合には、署名者は直接の相手方に対し支払を拒むことができる。
問題の所在(論点)
手形に署名した者が、真実の債務負担意思を欠いており、かつ直接の相手方がそのことを知っている場合に、署名者は当該相手方に対して手形債務を免れることができるか。特に手形法31条(保証)等の適用の有無が問題となる。
規範
手形行為は、意思表示の要素を含む法律行為である。したがって、手形上に署名がなされた場合であっても、署名者に真実手形債務を負担する意思がなく、かつ、手形の直接の相手方がその事情を知悉している(通謀虚偽表示または心裡留保に類する状態がある)場合には、手形法上の責任を負わない。
重要事実
被上告人らが本件手形に署名したが、これは真実振出人と共に支払を負担する趣旨ではなかった。手形の直接の相手方である上告人は、被上告人らにそのような支払の意思がないという事情を、署名の当時からもとより知っていた。その後、上告人が被上告人らに対し、手形金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
被上告人らの本件手形署名は、振出人と連帯して支払を負担する合意に基づくものではない。上告人は、被上告人らに債務負担の真実の意思がないことを主観的に認識していた(悪意)。このように、署名者に真実の意思がなく、相手方がそれを知っているという特段の事情がある以上、直接の当事者間においては、手形法31条3項(隠れた保証)等の規定を適用するまでもなく、被上告人らは上告人に対して支払を拒絶できる。真実の意思を欠く外形的な署名に依拠して権利を主張することは、悪意の直接当事者間では許されない。
結論
被上告人らは直接の当事者たる上告人に対し、本件手形金の支払を拒むことができる(上告棄却)。
実務上の射程
手形行為の有効性に関し、直接の当事者間では意思表示の瑕疵(民法総則の理)が考慮されうることを示した。第三者が介在しない場面での「手形の形式的有効性」と「実体的意思」の相克を、相手方の悪意を理由に実体的意思優先で解決する際の論拠となる。
事件番号: 昭和30(オ)654 / 裁判年月日: 昭和31年10月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形法17条但書の「悪意の抗弁」は、手形所持人が振出人の直接の相手方(受取人)である場合には、抗弁成立の前提を欠き、適用されない。 第1 事案の概要:上告人(振出人)は、被上告人(受取人)に対して本件手形を振り出した。上告人は、本件手形の割引に際して一部の金額しか受け取っていないという人的抗弁を主…