一 賃貸人の承諾をえた賃借権の譲渡による旧賃借人が賃貸借関係から離脱した旨の判断については、当事者の主張を要しない。けだし、これは、適法な賃借権の譲渡の事実から生ずる法律上の効果にすぎないからである。 二 所有者兼賃貸人から賃借人に対する損害賠償の請求は、賃貸借の終了による原状回復義務の債務不履行にもとづくものであると解せられる場合には、その終了が認められない以上、賃借人の占有関係を確定しないで、右請求を排斥しても、違法ではない。
一 賃貸人の承諾をえた賃借権の譲渡による旧賃借人が賃貸借関係から離脱した旨の判断については、当事者の主張を要するか 二 所有者兼賃貸人からする賃借人に対する損害賠償の請求について同人の占有関係を確定しないでこれを排斥することが適法とされた事例
民訴法186条,民訴法39条,民法613条,民法416条
判旨
賃貸人の承諾を得て賃借権が譲渡された場合、特段の合意がない限り、譲渡人は賃貸借関係から離脱し、以後の賃料支払義務等の契約上の地位を喪失する。
問題の所在(論点)
賃貸人が賃借権の譲渡を承諾した場合、元賃借人は賃貸借関係から当然に離脱し、その後の賃料支払義務や原状回復義務を免れるか。特に、譲渡人の離脱の意思が明確でない場合であっても、承諾の事実のみによって離脱の効果が生じるかが問題となる。
規範
賃貸人が賃借権の譲渡を承諾した場合、賃貸借契約上の地位は譲渡人から譲受人へと移転する。このとき、譲渡人は賃借人としての地位を喪失し、賃貸借関係から離脱するという法律効果が生じる。この離脱の効果は、譲渡人の主観的な意図の如何にかかわらず、適法な譲渡の承諾に伴う客観的な法律上の帰結として認められる。
重要事実
賃借人(被上告人)が、第三者Dに対し本件賃借権を譲渡した。賃貸人(上告人)は、この賃借権譲渡について承諾を与えた。その後、賃貸人は元賃借人に対し、債務不履行(賃料不払または無断転貸)を理由とした賃貸借契約の解除を主張し、建物の明け渡しおよび賃料相当損害金の支払いを求めて提訴した。元賃借人は、譲渡の承諾により自身は既に賃貸借関係から離脱していると主張して争った。
あてはめ
本件において、賃貸人による賃借権譲渡の承諾があった事実は原審により適法に認定されている。このような承諾がある以上、被上告人の意向がどのようなものであったかにかかわらず、被上告人は賃貸借関係から離脱するという法律効果が生じていると解される。また、離脱時まで被上告人に賃料の遅滞はなかったため、解除の前提となる債務不履行は存在しない。したがって、賃貸借関係を離脱した被上告人に対し、その後の占有関係を問わず、解除を理由とする明渡請求や損害賠償請求をすることはできない。
結論
賃貸人の承諾により賃借権譲渡がなされた場合、譲渡人は賃貸借関係から当然に離脱する。したがって、その後の事由に基づく解除や損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
賃借権譲渡における「契約上の地位の移転」の基本的な枠組みを示す。司法試験では、無断譲渡・転貸(民法612条)の論点に関連し、適法な譲渡があった場合の譲渡人の責任(未払賃料の支払義務や将来の賃料支払義務の有無)を判断する際の規範として活用できる。地位の移転に伴う免責的債務引受けに似た効果を認めるものである。
事件番号: 昭和33(オ)889 / 裁判年月日: 昭和35年6月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借の目的物である建物の所有権が順次移転した場合、借家法上の対抗要件を具備しているときは、賃貸人としての地位は新所有者に当然に承継される。 第1 事案の概要:建物所有者Dと賃借人(被上告人)の間で賃貸借契約が締結されていた。その後、本件建物の所有権がDからEへ、さらにEから上告人へと順次移転した…