個人経営の時計店の責任者として店舗内における修理販売に従事するほか商品を携帯して外交販売をする権限を与えられた使用人が、自己の小遣銭を得る目的で同一人に対し多数回にわたり店主所有の時計類一四四点を店舗外で時価に比し不当に廉価に売り渡した場合に、店主たる原告が、被告たる買主が質商であること、右買受けに際しては買主は使用人がほしいままに商品を持ち出して売却するものであることを知つていたこと等(判決理由参照)を主張しているのに、右は該使用人が自己の業務上占有する商品を不当に廉価に販売したにすぎないとして、売渡行為が代理行為としてなされたか否か、代理権の範囲に属するか否か等について審理することなく、ただちに店主の買主に対する使用人の窃取行為を理由とする所有権に基づく返還請求を排斥したことは審理不尽、理由不備の違法がある。
一定の販売代理権を与えられた個人経営の店舗の使用人が店主所有の商品を自己の小遣銭を得る目的で店舗外で第三者に売り渡した場合につき店主の買主に対する所有権に基づく返還請求権の成立を否定した判断に審理不尽ないし理由不備の違法があるとされた事例
民法99条,民訴法394条
判旨
代理人が自己の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、または知ることができたときは、民法107条(当時93条但書類推適用)の法理により、その行為の効力は本人に帰属しない。
問題の所在(論点)
代理人が代理権の範囲内の行為を装いつつ、自己の利益を図る目的で権限を濫用した場合において、相手方がその事情を知っていたときに、本人はその代理行為の効力を否定できるか。また、商法上の代理権を有する者の行為についても同様の法理が適用されるか。
規範
代理人が代理権の範囲内の行為をしても、それが自己または第三者の利益を図る目的(代理権の濫用)であり、かつ相手方がその目的を知り、または過失によって知らなかった場合には、民法93条但書の類推適用(現行107条)により、その行為の効果は本人に帰属しないと解する。商法上の支配人等(商法43条等)による行為であっても同様である。
重要事実
時計販売店店員Dは、店舗責任者として修理販売や外交販売の権限(代金授受・減額等)を与えられていた。Dは、自己の小遣い銭を得る目的で、店主(上告人)に無断で店内の時計類144点(本件物件)を持ち出し、質商を営む被上告人に対し、多数回にわたり不当に廉価で売却した。上告人は、被上告人に対し、所有権に基づく物件の返還等を求めて提訴した。
あてはめ
Dは店舖責任者として一定の代理権(商法43条所定の権限を含む余地がある)を有していたが、本件売却は「自己の小遣い銭を得る目的」という代理権の濫用にあたる。また、相手方が「質商」であること、売却が「多数回かつ大量」であり「不当に廉価」であった事実に照らせば、相手方はDの濫用の意図を知り、または知り得た可能性が高い。そうであれば、代理行為の効力は否定され、上告人は所有権に基づき返還を求めうる。
結論
代理権の濫用にあたる場合、相手方の悪意・有過失を審理した上で、代理行為の効力を否定し、本人による物件の返還請求を認めるべきである。
実務上の射程
代理権濫用の事案におけるリーディングケースの一つ。民法107条として明文化された現在でも、権限の範囲内であるかどうかの検討と、濫用目的・相手方の主観(知っていたか否か)の検討を分ける答案構成の指針となる。商法上の表見代理や無権代理の議論と併用されることが多い。
事件番号: 昭和33(オ)741 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】動産の買主が所有権に基づき返還を請求する場合、相手方が即時取得を主張したときは、当該請求には民法193条に基づく回復請求の趣旨も含まれると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件物件を買い受けたとして、占有者である上告人(被告)に対し、所有権に基づき物件の返還を求めた。こ…
事件番号: 昭和29(オ)847 / 裁判年月日: 昭和30年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】寄託を委任したからといって、当然に寄託関係の終了に伴う返還を受ける権限まで付与されたとは解されず、代理権限なき者への返還は債務不履行を構成する。また、倉庫業者として当然払うべき注意義務を尽くさない限り、受取人に代理権限があると信じたことについて正当な理由があるとはいえない。 第1 事案の概要:債権…