候補者の氏名の記載のほか、その上部「○」印を附記した投票を他事記載として無効と解することは、公職選挙法第六七条後段に違反せず、また憲法第一五条の解釈を誤るものではない。
候補者の氏名のほか「○」印を記載した投票の効力
憲法15条,公職選挙法67条,公職選挙法68条
判旨
投票の効力判定において、候補者の氏名のほかに「○」等の記号を附記した投票は、公職選挙法68条5号に基づき無効となる。これは無記名投票制の趣旨に基づくものであり、投票者が秘密の利益を放棄したとしても、なお無効を免れない。
問題の所在(論点)
候補者の氏名とともに「○」印などの記号を附記した投票が、公職選挙法68条5号(現行68条1項5号)にいう「他事」を記載したものとして無効となるか。また、投票者が自ら秘密の利益を放棄して記号を付した場合でも無効となるか。
規範
公職選挙法68条5号(現行68条1項5号)により、候補者の氏名のほか「他事」を記載した投票は無効となる。同法67条(現行67条1項)が投票者の意思を尊重すべき旨を定めているとしても、それは無効事由に該当しないことが前提である。また、無記名投票制を採用する法の趣旨に鑑み、附記された記号等が有意な記載と認められる場合には、一律に無効とすべきである。
重要事実
村議会議員選挙において、ある投票(検乙第1号)に候補者の氏名の上部に「○」印の附記があった。原審は、この附記が位置、形状、筆勢等からみて有意な記載であると認定し、公職選挙法68条5号の無効投票に当たると判断した。これに対し上告人は、投票者が秘密の利益を放棄している以上、有効とすべきであり、無効とすることは憲法15条の投票の秘密に反すると主張して争った。
あてはめ
本件の「○」印の附記は、その位置、形状、筆勢等から推して「有意の記載」と認められる。このような他事記載がある投票を無効とすることは、公職選挙法が無記名投票制を採用していることの当然の帰結である。憲法15条が保障する投票の秘密に関する利益を投票者自身が放棄したとしても、選挙の公正を確保するための法的な制度枠組みである無記名投票制の要請(他事記載の禁止)は否定されない。
結論
当該投票は、公職選挙法68条5号に基づき無効である。憲法15条の解釈誤りも認められない。
実務上の射程
投票の効力判定に関するリーディングケースの一つ。答案上は、記載された事項が単なる書き損じや指名の一部と評価できるか、それとも「有意な他事」にあたるかを、形状や筆勢から判断する。自由な意思表明よりも、無記名投票制という制度的客観性を優先する判例の姿勢を示すものとして活用できる。
事件番号: 昭和47(行ツ)46 / 裁判年月日: 昭和47年7月14日 / 結論: 棄却
投票の裏面に多数の文字らしいものを記載(原判決別紙目録九参照)した投票は、他事記載のあるものとして無効と解すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)63 / 裁判年月日: 昭和33年4月8日 / 結論: 棄却
「A兼光」と記載された投票は、候補者A左文太に対する有効投票と解することはできない。