法人が横領行為によつて損害を被つた場合には、その損害額を損金に計上するとともに、これによる損害賠償請求権を益金に計上したうえ、右請求権が債務者の無資力その他の事由によつて実現不能が明白となつたときに至つて、これをその年度の損金とするのが、法人所得の計算上相当である。
横領行為により被つた法人の損害の法人所得計算上の処理
旧法人税法(昭和22年法律第28号)9条
判旨
法人の役員による横領被害は損金を構成するが、同時に発生する損害賠償請求権も益金を構成するため、当該請求権が取得当初から明白に実現不能でない限り、当該事業年度の所得計算において両者は相殺される。また、代表取締役による横領を原因とする過少申告については、法人側に「正当な事由」があるとは認められない。
問題の所在(論点)
1. 役員による横領が発生した場合、損害額の損金算入と損害賠償請求権の益金算入をどのように解すべきか。特に請求権の実現可能性が低い場合の取扱いが問題となる。 2. 代表取締役による横領および経費仮装により過少申告が生じた場合、法人税法上の過少申告加算税を免れる「正当な事由」があるといえるか。
規範
1. 法人税法上の益金・損金の算入時期について、横領による損害は損金となるが、それに対応する損害賠償請求権は益金を構成する。ただし、取得当初から当該請求権の実現不能が明白である場合には、直ちに損金算入が認められる。 2. 過少申告加算税における「正当な事由」の有無は、申告責任者である代表取締役等の行為を基準に判断し、その不正により適正な申告が困難であったとしても、法人としての責任を免れるものではない。
重要事実
上告会社(法人)の会計担当役員であり代表取締役でもあったDが、3事業年度にわたり業務上の保管金を横領し、これを経費に仮装して計上していた。上告会社は当該横領額を損金として申告したが、課税当局はこれを否認し、横領額をDに対する仮払金(損害賠償請求権)として処理する更正処分および過少申告加算税の賦課決定を行った。Dは示談を拒否し実刑判決を受けていたが、当該事業年度中に請求権の実現不能が明白であったとまでは認められなかった。
事件番号: 昭和47(行ツ)48 / 裁判年月日: 昭和51年2月26日 / 結論: 棄却
法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前のもの)二条一〇号イないしハに規定する同族会社の要件のいずれかに該当する同族会社の同族判定株主である使用人兼務役員は、すべて同法三五条二項の使用人兼務役員から除外されると解するのが相当である。
あてはめ
1. 横領により資産が減少するため損金が生じるのは明らかだが、同時に同額の損害賠償請求権を取得するため、これは資産の増加として益金を構成する。本件では、Dが実刑を受けた等の事情はあるが、各事業年度において請求権の全部又は一部の実現不能が客観的に明白であったとは認められない。したがって、益金と損金が相殺される結果、所得額に変動はないとした更正処分は適法である。 2. Dは代表取締役として法人の申告責任を負う立場にある。その者が自ら不正を行い経費を仮装したことが原因で申告が不適正となった以上、会社側で不正を把握できなかったとしても、申告誤りについて「正当な事由」があるとは到底認められない。
結論
1. 横領損害と賠償請求権は原則として同時期に益金・損金に算入され、実現不能が明白でない限り所得は減少しない。 2. 代表取締役の不正による過少申告に「正当な事由」はなく、加算税の賦課は適法である。
実務上の射程
役員横領事案における税務処理の基本判例である。答案上は、益金・損金の同時計上原則(両建て処理)を示す際に引用する。特に「実現不能が当初から明白」という例外要件のあてはめが重要となる。また、加算税の「正当な事由」については、代表者の行為を法人の行為と同視する規範として、国税通則法上の解釈にも援用可能である。
事件番号: 昭和49(行ツ)28 / 裁判年月日: 昭和50年2月25日 / 結論: 棄却
資産の延払条件付譲渡に係る確定決算の経理が、翌事業年度に計上すべき賦払金を係争事業年度の収益に計上した点において、法定の延払基準の方法に従つたものでないときは、右違法な部分のみを除外して延払経理による課税の特例の適用を認めることはできない。
事件番号: 昭和43(行ツ)61 / 裁判年月日: 昭和47年12月5日 / 結論: 棄却
一、法人税青色申告についてした更正処分の通知書に、係争事業年度所得の更正の理由として、「営業譲渡補償金計上もれ一一五五万円」、「認定利息(代表者)計上もれ一万九八三九円」、清算所得の更正の理由として、「代表者仮払金三九万六八九〇円」、「営業譲渡補償金九〇五万円」と記載されているにすぎない場合には、いずれも理由附記として…
事件番号: 平成10(行ツ)77 / 裁判年月日: 平成16年9月7日 / 結論: 破棄自判
会社がその代表者に代わって同人の借入金の利息を支払ったことにより,その経済的利益に相当する同人に対する給与等(賞与)の支払があったことになって会社に源泉徴収による所得税の納税義務が客観的に成立したが,実際にされた納税の告知は,会社が同人に上記利息相当額を無利息で貸し付け,この貸付けに係る得べかりし利息相当額の経済的利益…
事件番号: 平成14(行ヒ)147 / 裁判年月日: 平成16年12月24日 / 結論: 破棄自判
1 法人の各事業年度の所得の金額の計算において,金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには,当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならず,そのことは,債務者の資産状況,支払能力等の債務者側の事情のみならず,債権回収に…