釈放遅延による違法な勾留継続について警察官に過失があるとされた事例
判旨
警察官が、被疑者の無実を示唆する重要な証拠資料を検察官への送付記録に添付しなかったことは、国家賠償法上の過失にあたり、これにより検察官の検討が遅れ釈放が遅延した場合には、当該不作為と釈放遅延との間に因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
警察官が被疑者の無実を示す証拠資料を検察官への送付記録に添付しなかった行為が、国家賠償法1条1項にいう公務員の過失にあたるか。また、検察官が別途捜査状況を把握していた可能性がある場合、当該添付漏れと釈放遅延との間に因果関係が認められるか。
規範
警察官は、捜査により得られた証拠資料、特に被疑者の嫌疑を晴らすに足りる重要な客観的証拠については、速やかに検察官に送付し、適切な判断の機会を保障すべき職務上の義務を負う。この義務に反して重要書類を添付せず、その結果として検察官による釈放の判断を遅延させた場合には、当該警察官に国家賠償法上の過失が認められ、釈放遅延との間の因果関係も肯定される。
重要事実
東京都の担当警察官は、検察官への送付記録に「診察所見」と題する書面(被害者体内の精液遺留が疑わしい旨の記載あり)を添付したが、一方で、犯人の遺留精液の血液型を明示した鑑定書やその他の報告書(被疑者の血液型と一致しないことを示すもの)を添付しなかった。このため、検察官において被疑者の釈放を検討する機会が遅れ、不当な勾留継続を招く結果となった。
あてはめ
担当警察官は、犯人の遺留精液の血液型を明示した鑑定書等の重要資料を把握していたにもかかわらず、送付記録にこれらを添付しなかった。この不作為により、検察官が客観的証拠に基づき勾留の是非を適切に検討する機会を遅らせたといえる。上告人は、検察官が捜査本部に頻繁に出入りし捜査状況を把握していたため因果関係がないと主張するが、原審で認定された事実によれば、鑑定書等の不添付が検察官の判断を遅らせる一因となったことは明らかであり、警察官の過失と釈放遅延との間の因果関係は否定されない。
結論
警察官の書類添付漏れには国家賠償法上の過失が認められ、これと釈放遅延との間の因果関係も肯定されるため、東京都の賠償責任を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
捜査機関の不作為による違法な身体拘束の継続に関する国家賠償請求事案。警察・検察間の情報共有の不備が「職務上の義務違反」を構成する際の枠組みとして機能する。司法試験においては、警察官の捜査報告義務や証拠送致の適正さが問われる場面で、因果関係の判断に際して活用できる。
事件番号: 昭和56(オ)1246 / 裁判年月日: 昭和57年4月23日 / 結論: 棄却
使用者が被用者の道路交通法違反の事実を知りながら殊更これを隠そうとする不信な言動をとり、また、目撃者が顔写真に基づき犯人は右使用者である旨を断言したなど、原判示の事実関係のもとにおいては、右使用者を被疑者として誤認逮捕し、被用者が犯人であることが判明するまでの間その身柄を拘束した警察官に過失はない。