賃貸借終了後の目的物返還義務不履行ないし不法占拠による損害額が賃貸借契約における約定賃料額を超えると判断しても、違法とはいえない。
賃貸借契約における約定賃料額と賃貸借終了後の目的物返還義務不履行ないし不法占拠による損害額
民法416条,民法709条
判旨
賃借人による建物の無断増改築が賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りる不信行為に該当する場合、賃貸人は信頼関係の破壊を理由として賃貸借契約を解除することができる。また、契約終了後の損害金は、約定賃料にとらわれず客観的な賃料相当額によって算定される。
問題の所在(論点)
1. 賃借人による建物の無断増改築が、信頼関係を破壊するに足りる不信行為として賃貸借契約の解除事由となるか。 2. 賃貸借契約終了後の不法占拠による損害金を算定する際、約定賃料を超える客観的な賃料相当額を基準とすることができるか。
規範
賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるため、賃借人に債務不履行(無断増改築等)があった場合でも、それが賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるときは解除権は発生しない。換言すれば、賃借人の行為が賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りる不信行為と認められる場合には、賃貸人は契約を解除できる。また、解除後の不法占拠による損害金については、約定賃料と客観的な相当賃料は必ずしも一致しないため、実勢価格に基づき算定することが許容される。
重要事実
賃借人である上告人(株式会社)は、賃貸人である被上告人の承諾を得ることなく、本件建物について昭和33年以降、数次にわたり合計290坪余に達する大規模な増改築工事を実施した。被上告人は、この無断増改築を理由に昭和39年1月17日付で賃貸借契約を解除し、建物の明け渡しと解除後の賃料相当損害金の支払いを求めた。なお、当時の客観的な賃料相当額は月額15万円であり、約定賃料を上回るものであった。
あてはめ
1. 本件では、賃借人が賃貸人の明示・黙示の承諾を得ることなく、延べ面積290坪余という広範囲にわたる増改築を強行している。このような大規模な改変を独断で行うことは、賃貸人の所有権を著しく侵害するものであり、賃貸借の基礎となる信頼関係を破壊するに足りる不信行為といえる。 2. 損害賠償の算定について、約定賃料はあくまで契約期間中の合意に基づくものである。契約終了後の損害は、実際に賃貸人が得られたはずの賃料収益を基準とすべきであり、市場価格に基づく客観的な相当額(月額15万円)が約定賃料を超えていたとしても、それを基準に損害額を算出することに違法はない。
結論
賃借人の無断増改築は信頼関係を破壊する不信行為にあたり、本件解除は有効である。また、解除後の損害金として約定額を超える客観的賃料相当額の請求を認めることは正当である。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理を無断増改築の場面に適用した事例。答案上は、賃借人の義務違反(増改築禁止特約違反や善管注意義務違反)を指摘した上で、その態様(本件では面積の大きさ等)から信頼関係が破壊されたか否かを論じる際の指標となる。また、賃料相当損害金が約定賃料に拘束されないという点は、損害賠償額の算定論点において汎用性が高い。
事件番号: 昭和37(オ)747 / 裁判年月日: 昭和39年7月28日 / 結論: 棄却
家屋の賃貸借において、催告期間内に延滞賃料が弁済されなかつた場合であつても、当該催告金額九六〇〇円のうち四八〇〇円はすでに適法に弁済供託がされており、その残額は、統制額超過部分を除けば、三〇〇〇円程度にすぎなかつたのみならず、賃借人は過去一八年間にわたり当該家屋を賃借居住し、右催告に至るまで、右延滞を除き、賃料を延滞し…