共同相続人の一部の者の単独名義でされた所有権移転登記に関しては、他の共有者は、右登記の抹消登記手続を求めることはできず、ただその有する持分の限度において、一部抹消(更正)登記手続を求めうるにすぎない。
共同相続人の一部の者の単独名義でされた所有権移転登記に対し他の共有者からする全部抹消登記請求の可否
民法177条,不動産登記法63条
判旨
不動産が共同相続されたにもかかわらず、相続人の一人が単独名義で所有権移転登記を了している場合、他の共同相続人は、自己の持分を侵害する範囲でのみ登記の抹消(更正登記)を求めることができ、登記全部の抹消を求めることはできない。
問題の所在(論点)
共同相続財産について、一人の相続人が不実の単独名義登記を具備している場合、他の共同相続人は当該登記の「全部」の抹消を請求することができるか。妨害排除請求権の行使範囲が問題となる。
規範
共同相続された不動産につき、一部の相続人が実体上の持分を超えて単独名義の所有権取得登記をなした場合、他の共同相続人は自己の持分に基づく妨害排除請求として登記の抹消を求めうる。しかし、当該登記は、登記名義人の本来の持分の範囲内では実体関係と符合しているため、他の相続人が請求できるのは自己の有する持分の限度での一部抹消(更正)登記手続に限定される。
重要事実
亡Dの遺産である土地および建物について、共同相続人である上告人と被上告人らの間で遺産分割協議が成立した事実はなかった。しかし、上告人は当該不動産について自己のみの単独名義とする所有権取得登記を了した。これに対し、被上告人らは、自己の持分に基づき、上告人名義の登記全部の抹消登記手続を求めて提訴した。
事件番号: 昭和37(オ)396 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
第一審判決主文に民訴法第一九四条にいう明白な誤謬がある場合、控訴裁判所が控訴棄却の判決をするにあたり判決の理由中に理由を示し主文において右誤謬を更正しても違法ではない。
あてはめ
本件において、被上告人らは亡Dの共同相続人であり、当該不動産について実体法上の持分を有している。一方、上告人も共同相続人の一人であり、その持分の範囲内では単独名義登記も実体関係と符合している。そのため、被上告人らが上告人に対し、登記全部の抹消を求めることは、上告人の正当な持分まで否定することになり許されない。被上告人らは、自己の持分を侵害されている限度においてのみ、実体関係と符合させるための更正登記(一部抹消)を求めるべきである。
結論
共同相続人の持分に基づく抹消登記請求は、自己の持分の限度でのみ認められる。全部抹消を求める趣旨であれば棄却を免れないが、持分の限度で実体と符号させる趣旨であれば認容されるべきであるため、その点を確認すべく原審に差し戻した。
実務上の射程
物権的請求権に基づく登記請求の範囲を画定した重要判例である。答案上では、共有物に対する保存行為(民法252条ただし書)としての全部抹消請求の可否が議論される際、本判決を引用して「実体的な持分権の範囲で登記が有効である以上、全部抹消はできず、自己の持分についてのみ更正登記をなしうる」という論理を展開する際に用いる。
事件番号: 昭和35(オ)1197 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
一 甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。 二 右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。 三 …
事件番号: 昭和36(オ)315 / 裁判年月日: 昭和39年1月30日 / 結論: その他
一 甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は乙丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。 二 右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。
事件番号: 昭和37(オ)875 / 裁判年月日: 昭和40年1月19日 / 結論: 棄却
土地の共有者がその持分権のみを第三者に移転するには、他の共有者の同意は不要である。