原審が本件売買契約に関し確定した諸般の事情のもとでは、同契約が民法第七六一条にいわゆる「日常の家事」に属するものとはいえない旨の原審の判断は正当である。
売買契約が民法第七六一条にいわゆる「日常の家事」にあたらないとされた事例
民法761条
判旨
民法761条の「日常の家事」に属するか否かは、夫婦の共同生活の態様や当該法律行為の目的、性質等に照らして判断されるべきであり、不動産の売買契約などは原則としてこれに含まれない。
問題の所在(論点)
夫婦の一方が行った不動産の売買契約が、民法761条に規定される「日常の家事」に関する法律行為に該当し、他方の配偶者が連帯責任を負うか、あるいは代理権の基礎となるか。
規範
民法761条にいう「日常の家事」とは、個々の夫婦の共同生活において通常必要とされる一切の事項を指す。その範囲は、単に当該夫婦の主観的意図のみならず、客観的にみて当該法律行為の目的、性質、および当該夫婦の共同生活の態様(社会的地位、職業、資産、収入等)を総合して判断すべきである。不動産の処分のような、共同生活の維持に通常必要とは認め難い重大な行為は、特段の事情がない限りこれに属さない。
重要事実
控訴人(被上告人)の妻である訴外Dが、夫から代理権を授与されていないにもかかわらず、本件売買契約を締結した。これに対し、相手方である上告人は、本件契約が民法761条の「日常の家事」に含まれるとして、夫(被上告人)に効果が帰属することを主張した。原審は、当該売買契約の諸事情を考慮し、日常の家事には当たらないと認定した。
事件番号: 昭和39(オ)1227 / 裁判年月日: 昭和41年1月21日 / 結論: 棄却
家事一切を処理するについて夫を代理して法律行為をする権限が与えられ、従つて夫の所有不動産を夫に代理して管理する権限をも与えられていた妻が、右代理権限を超えてなした不動産売却行為については、判示事実関係のもとで、表見代理が成立する。
あてはめ
本件における売買契約は、不動産の処分を伴うものである。日常の家事とは、衣食住の調達や医療、子供の養育など、共同生活を維持するために日常的に繰り返される行為を指すところ、不動産の売買は、その性質上、通常の共同生活において頻繁に行われる必要不可欠な行為とは言い難い。原審が確定した諸般の事情(判決文からは具体的な内訳は不明だが、契約の目的や態様等)に照らせば、本件契約が日常の範囲を超えているとした判断は正当である。したがって、本件売買契約につき民法761条を適用することはできない。
結論
本件売買契約は民法761条の「日常の家事」に属さないため、夫(被上告人)はその責任を負わない。
実務上の射程
本判決は、民法761条の範囲を限定的に解する実務上の指針を示す。答案作成上は、同条の「日常の家事」の意義を定義した上で、不動産処分等の重大な行為については原則として否定する流れで活用する。また、同条を基礎とした表見代理(110条の類推適用)を検討する際の前置的な判断枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和43(オ)971 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 棄却
一、民法七六一条は、夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解すべきである。 二、夫婦の一方が民法七六一条所定の日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権を基礎として一般的に同法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定すべきで…
事件番号: 昭和41(オ)60 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
不動産の処分を委ねられた者が、代理の形式によらず自己の名で該不動産を第三者に譲渡した場合でも、所有権は本人から該第三者に移転する。
事件番号: 昭和31(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和34年8月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】日常家事に関する代理権を基礎として権限外の行為がなされた場合、その相手方が代理権があると信ずるにつき正当な理由があるときは、民法110条が適用または類推適用される。 第1 事案の概要:職業軍人であった夫(上告人)は、昭和19年に南方へ出征する際、妻に対して後事を託し、日常家事に関する代理権を授与し…
事件番号: 昭和39(オ)900 / 裁判年月日: 昭和40年2月11日 / 結論: 棄却
「被上告人が甲を代理人とし一二月初め代物弁済予約完結の意思表示をした」との主張に対し、裁判所が、被上告本人が一二月二七日頃代物弁済予約完結の意思表示をしたと認定しても、弁論主義に反しない。