約束手形の振出人名義がその記名捺印の冒用による偽造であるとされた事実関係(原判決理由参照)のもとで、振出名義人本人の追認があれば、振出の当初からその効力が本人に及ぶものと解して妨げない。
約束手形の振出人名義が偽造であるとされた事実関係のもとで振出名義人本人の追認が認められた事例
手形法7条,手形法8条
判旨
手形行為の偽造(代行形式の無権代理)がなされた場合であっても、本人がその行為を追認すれば、民法の無権代理の追認の規定を類推適用して、遡及的に本人に対して効力を生ずる。
問題の所在(論点)
権限のない者が他人の記名捺印を代行して行った手形行為(偽造)について、本人が追認することによって、その手形上の責任を負うか。偽造行為が民法119条の「無効な行為」として追認不可能か、あるいは無権代理の規定を類推適用できるかが問題となる。
規範
手形行為の偽造、すなわち権限のない者が直接本人の記名捺印を代行した場合であっても、その性質は無権代理人と同様である。したがって、本人が当該偽造行為を追認したときは、民法113条以下の規定を類推適用し、その行為は当初より本人に効力を生ずる(遡及的有効)。
重要事実
上告人の妻Dは、上告人から手形振出の代理権や記名捺印の権限を与えられていないにもかかわらず、本件約束手形の振出人欄に上告人の記名印および名下印を押捺した(偽造)。その後、上告人はこの偽造にかかる本件約束手形の振出行為を事後的に追認した。
あてはめ
本件において、妻Dによる記名捺印は上告人の承諾なく行われたものであり、形式的には偽造にあたる。しかし、このような「代行形式」による無権限行使は、本人名義で法律行為を行うという点において、顕名を伴う「代理形式」の無権代理と実質的に異ならない。したがって、民法119条の無効な行為の追認制限にかかわらず、無権代理の追認に関する規定を類推適用することが可能である。上告人が本件振出を追認した以上、その効力は本人に帰属するといえる。
結論
本件手形の振出行為は追認によって当初から上告人に効力を生じ、上告人は手形債務を免れない。
実務上の射程
手形の偽造には、本人の署名を模した狭義の偽造と、本人の印章等を利用した代行形式があるが、本判例は後者について無権代理の規定(民法113条等)を類推適用できることを明示した。司法試験では、偽造と無権代理の区別を論じた上で、追認の可否を論ずる際の根拠として活用すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)546 / 裁判年月日: 昭和38年6月4日 / 結論: 棄却
手形署名代理は、手形代理行為として有効である。