一 さきに農地賃貸借契約解除許可処分が農地法第二〇条第二項一号に違反することを請求の原因とし、農林大臣宛の訴願が三箇月を経過しても裁決されないと主張して訴願の裁決を経ることなく、知事を相手どり、右処分の取消を求める訴を提起して敗訴の確定判決を受けた者が、右訴の口頭弁論終結後にいたり前記訴願について棄却の裁決がなされたところから、さらに、右と全く同一の請求原因事実に基づき、同一の被告に対して提起した右農地賃貸借契約解除許可処分自体の取消を求める訴は、前訴の確定判決の既判力により不適法であるというべきである。 二 高等海難審判庁の裁決は、確定の後執行されるものであるから、その執行停止の必要は存しない。
一 行政処分の取消を求める訴が判決の既判力によつて不適法とされた事例。 一 高等海難審判庁の裁決に対する執行停止の要否。
民訴法199条1項,民訴法201条1項,行政事件訴訟特例法2条,海難審判法57条,行政事件訴訟法25条
判旨
行政処分の取消訴訟において、訴願の裁決の有無は訴訟要件たる訴願前置の適否を左右するにすぎず、訴訟物の同一性を左右するものではない。したがって、前訴判決の確定後に裁決がなされたとしても、同一の請求原因に基づく後訴には前訴の既判力が及ぶ。
問題の所在(論点)
前訴の口頭弁論終結後に「訴願の裁決」という新たな事実が発生した場合、前訴の確定判決の既判力は、同一の処分取消しを求める後訴に及ぶか。換言すれば、裁決の有無が訴訟物の同一性に影響を与えるか。
規範
既判力は、当事者並びに請求の趣旨及び請求の原因によって特定される訴訟物が同一である場合に及ぶ。行政訴訟において、訴願(審査請求)の裁決がなされたか否かという事実は、訴訟要件としての訴願前置の要否を決定する事由にすぎず、訴訟物の同一性を左右する基準とはならない。
重要事実
事件番号: 昭和27(オ)1149 / 裁判年月日: 昭和29年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の売渡処分が完了し効力を生じた後は、後日農地委員会が売渡計画の取消を決議し申達したとしても、既になされた処分の効力は当然には左右されない。また、強制譲渡の義務は県知事による譲渡令書の交付によって発生するため、単なる計画の申達段階では売渡処分の効力に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:本件農地…
上告人は、農地賃貸借契約解除許可処分が農地法に違反すると主張し、知事を相手取って処分の取消訴訟(前訴)を提起した。前訴では訴願の裁決を経ていなかったが、裁決が3か月間なされないことを理由に提起し、敗訴判決が確定した。その後、前訴の口頭弁論終結後に訴願棄却の裁決がなされたため、上告人は全く同一の請求原因に基づき、再び同処分の取消しを求める訴え(後訴)を提起した。
あてはめ
本件の前訴と後訴を比較すると、当事者、請求の趣旨、および処分の違法性を主張する請求の原因が全く同一である。上告人が主張する「訴願の裁決がなされた」という事実は、訴えの提起が適法か否かを決する訴願前置(訴訟要件)に関わる事由にすぎない。前訴は訴訟要件欠如により却下されたものではなく、本案判決が確定している以上、後訴において訴訟物の同一性を否定する理由にはならない。したがって、前訴判決の既判力は後訴に及ぶというべきである。
結論
前訴と後訴は訴訟物が同一であり、前訴確定判決の既判力が後訴に及ぶため、上告人の請求は認められない(上告棄却)。
実務上の射程
訴訟要件に関わる事実(裁決の有無等)の変動が、本案の訴訟物の同一性に影響を与えないことを明示した。行政訴訟において「事情が変わった」として再度の提訴を試みる事案に対し、既判力による遮断を検討する際の基準となる。特に本案判決が確定している場合の既判力の範囲を画定する上で重要である。
事件番号: 昭和29(オ)550 / 裁判年月日: 昭和31年4月13日 / 結論: 棄却
昭和二四年法律第二一五号による農地調整法改正前においても、同法第四条によつて市町村農地委員会が行う農地等の所有権、賃借権等の設定、移転等の承認は同委員会の自由な裁量に委せられていたものと解すべきでない。
事件番号: 昭和28(オ)1049 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分は、外部に表示されてはじめて効力を生ずるため、内部的な意思決定に留まる段階では効力を持たず、後にこれを取り消して異なる意思決定をしても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人は、昭和22年3月31日に承認の議決(行政処分)がなされたと主張したが、当該議決は外部に対して表示されていなかった。…
事件番号: 昭和36(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和37年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約における賃借人の債務不履行を理由とする解除が認められるためには、単なる履行遅滞のみでは足りず、その不履行が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を困難にする程度に至っていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、訴外D(賃借人)が小作料を支払わなかったことを理由…