農地法第二〇条第一項にいう賃貸借の合意による解約とは、賃貸借解消の効果が将来に向つてのみ発生する場合であると、その効果が遡及的に発生する場合であるとを問わず、賃貸借関係の解消が当事者双方の合意に基づく場合を指すものと解すべきである。
農地法第二〇条第一項にいう合意による解約の意義
農地法20条
判旨
農地法20条1項に規定される「合意による解約」には、賃貸借解消の効果が将来に向かってのみ発生する場合だけでなく、遡及的に発生するいわゆる「合意解除」も含まれる。
問題の所在(論点)
農地法20条1項にいう「合意による解約」に、遡及的効力を有する当事者間の「合意解除」が含まれるか。また、その場合、合意解約としての方式手続を遵守する必要があるか。
規範
農地法20条1項が、賃貸借の解除、解約の申入れ、更新の拒絶と並べて掲げる「合意による解約」とは、賃貸借関係の解消が当事者双方の合意に基づく場合を広く指す。したがって、解消の効果が将来に向かってのみ生じる場合に限られず、遡及的に解消させる旨の合意(合意解除)であっても、同項の「合意による解約」に該当し、所定の方式・手続を要する。
重要事実
上告人の先代と訴外Dとの間で、農地賃貸借を期間満了時に終了させる旨の合意(覚書)が締結された。上告人らは、この合意を「遡及的に契約を解消する合意解除」であると主張し、農地法20条1項に基づく許可申請を行った。これに対し、知事(被上告人)は、申請が合意による解約を理由とする許可申請の方式を具備していないとして却下処分を下した。上告人らは、本件合意が遡及的効果を持つ以上、通常の「合意解約」とは別異に扱うべきであり、却下は違法であるとして争った。
事件番号: 昭和26(オ)384 / 裁判年月日: 昭和27年11月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年法律第二四〇号による農地調整法改正前においては、農地賃貸借の合意解約について、同法第九条第三項による知事の許可を要しない。
あてはめ
農地法20条1項の趣旨は、耕作者の地位の安定を図るため、賃貸借の解消を厳格な規制下に置く点にある。本件における覚書第2項の合意が、上告人らの主張するように遡及的効果を有する「合意解除」の性質を持つものであったとしても、当事者の合意によって賃貸借関係を解消させるものである以上、同項の「合意による解約」に包含される。したがって、当該合意に基づく解消については、農地法が定める「合意による解約」としての適法な方式・手続を経ることが不可欠である。
結論
本件合意は農地法20条1項の「合意による解約」に該当するため、適法な方式を欠くことを理由に許可申請を却下した処分は正当である。
実務上の射程
農地法における賃貸借の合意解消については、その法的性質が遡及的(解除)か将来向け(解約)かを問わず、一律に同法20条1項の規制が及ぶことを明示した。実務上、農地の権利関係を当事者の合意で解消する際には、民法上の文言の如何にかかわらず同法の厳格な手続遵守が求められることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和30(オ)417 / 裁判年月日: 昭和31年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁が一度行った農地賃貸借解約許可処分は、当該許可に基づき解約の申入れがなされ、既に解約の効力が生じている場合には、私法上の形成効果が確定しているため、もはや行政庁においてこれを取り消すことはできない。 第1 事案の概要:上告人は農地法(旧農地調整法)に基づき、知事から農地賃貸借の解約許可を受け…
事件番号: 昭和26(オ)257 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法(旧農地調整法)上の「一時賃貸借」に該当する場合、賃貸借の解約等について知事の許可を要せず、便宜的になされた許可における正当事由の有無も問題とならない。 第1 事案の概要:農地の賃借人と賃貸人の間において、当該賃貸借契約が一時的なものであると認定された事案。知事は便宜的に当該賃貸借に関する許…
事件番号: 昭和36(オ)607 / 裁判年月日: 昭和37年2月15日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係のもとで地主主張の反別に相応する小作料を支払わず、それより狭い反別に相応する小作料を弁済供託したからといつて小作人の行為は、農地法第二〇条第二項一号の信義に反する行為にあたらない。
事件番号: 昭和26(オ)452 / 裁判年月日: 昭和28年9月4日 / 結論: 棄却
知事が農地調整法第九条第三項によつて農地賃貸借解約を許可した後は、許可申請書に事実にあわない記載があり、錯誤によつて許可したものとしても申請者側に詐欺等の不正行為があつたことが顕著でない限り、それだけの理由で、さきの許可処分を取り消すことはできない。