受任者が受任事務の処理について利益を有する委任契約であつても、やむをえない事由があるときは、委任者は契約を解除することができる。
受任者が受任事務の処理について利益を有する委任契約とやむをえない事由による解除の成否
民法651条
判旨
受任者の利益をも目的とする委任契約であっても、委任の基礎となる対人的信用関係を破壊するような「やむを得ない事由」がある場合には、委任者は民法651条に基づき契約を解除できる。
問題の所在(論点)
民法651条1項によれば、委任は各当事者がいつでも解除できるのが原則であるが、本件のように受任者の利益をも目的とする委任契約において、委任者からの解除が認められるための要件が問題となる。
規範
委任契約は当事者間の対人的信用関係を基礎とするものである。したがって、委任者の利益のみならず受任者の利益のためにも委任がなされた場合(いわゆる「受任者の利益をも目的とする委任」)であっても、受任者が著しく不誠実な行動に出た等、当事者間の信頼関係を破壊するような「やむを得ない事由」があるときは、委任者は委任契約を解除することができる。
重要事実
委任者(被上告人)は、自社の資産・負債の処理を目的として受任者(上告人)に事務を委託し、その一環として建物の所有権移転登記及び引渡しを行った。しかし、受任者の代表者は、負債弁済の事務を積極的に処理せず、自社の事業に差し支えない範囲で委任者の収入から弁済を行うにとどまった。結果として、長期間にわたり委任者の負債処理の実が上がらず、多額の負債が残存する一方で、受任者側は委任者の収入から多額の金員を手にしていた。
事件番号: 昭和26(オ)88 / 裁判年月日: 昭和29年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法541条に基づく解除のための催告期間が不相当に短い場合であっても、催告後の相当期間が経過すれば解除の効力が発生する。 第1 事案の概要:上告人は、相手方に対して本件契約の履行を求めて催告を行ったが、その際に定めた期間が「不相当」であるとして、解除の効力が争われた。原審は、当該期間経過後、客観的…
あてはめ
本件では、受任者が長期間にわたり委任者の負債処理を懈怠しており、収支面において委任者に寄与するどころか、委任者の収入を自ら享受している状況にある。このような受任者の態度は「著しく不誠実な行動」にあたり、委任の基礎となる信用関係を破壊するものといえる。したがって、本件には委任契約を解除するに足りる「やむを得ない事由」が認められる。
結論
受任者の利益をも目的とする委任契約であっても、信頼関係を破壊するやむを得ない事由がある以上、委任者による解除は有効であり、受任者は建物の抹消登記及び返還義務を負う。
実務上の射程
受任者の利益をも目的とする委任の解除権を制限しつつ、無制限の拘束を否定する基準を示した。司法試験上は、民法651条の原則(自由解除)を前提としつつ、受任者に正当な期待がある場合には解除権が制限されること、そしてその再反論として「やむを得ない事由」がある場合には再び解除が可能になるという三段構えの論理構成で活用する。
事件番号: 昭和36(オ)513 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲受人等の第三者が民法177条の「第三者」に該当しないとされるためには、単に権利の存在を知っているだけでは足りず、相手方の登記の欠如を主張することが信義則(民法1条2項)に反すると認められるほどの強い「害意」を有する背信的悪意者であることを要する。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本…
事件番号: 昭和27(オ)1198 / 裁判年月日: 昭和28年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】任意代理人が復代理人を選任する際、民法104条にいう「やむを得ない事由があるとき」の判断にあたっては、原審が認定した具体的な事実関係に照らして判断すべきである。本件では、上告人の妻による復代理人の選任は同条の要件を満たすと判断された。 第1 事案の概要:上告人の妻が任意代理人として行為するにあたり…
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。