限定種類債務の目的物が当事者の合意により特定し一時買主の保管下におかれた場合でも、売主において修理を加え完成品として引き渡すことを後日に留保したときは、いまだ売買目的物の引渡しを了したものとはいえず、債務不履行責任を生じうる。
限定種類債務の目的物特定後における債務不履行
民法401条,民法415条,民法570条
判旨
売買契約において、目的物に相当の修理改装を要する不完全な点があり、売主がこれを修理した上で改めて引き渡すことを約した場合には、たとえ目的物が買主の保管下にあっても、引渡義務の履行は完了していない。
問題の所在(論点)
売買目的物に瑕疵や不完全な点がある場合において、現実に物が買主の占有下に移転していれば、債務の本旨に従った「引渡し」があったといえるか。特に、特定物売買における瑕疵担保責任(現:契約不適合責任)の成否と引渡義務の履行完了の境界が問題となる。
規範
売買契約における引渡義務の履行が完了したか否かは、単なる占有の移転という事実のみならず、当事者間において「債務の本旨に従った完成品としての引渡し」がなされたか否かによって判断される。特に、目的物に重大な不備があり、当事者間で修理・完成後の再引渡しが合意された場合には、その完成・提供までは引渡しが完了したとは認められない。
重要事実
上告人(売主)は被上告人(買主)に対し砂利採取機を販売し、被上告人の採取場に搬入したが、試運転の結果、相当の修理改装を加えなければ通常の操業に耐えないことが判明した。これを受け、上告人の支店長は修理義務を認め、完成を待って改めて引き渡すことを約した。機械は一時的に被上告人の保管下におかれたが、修理は完了していなかった。
あてはめ
本件では、砂利採取機が通常の操業に耐えない状態であり、売主自身が修理後の再引渡しを合意している。この事実に照らせば、当事者の意思として「完成品としての引渡し」は後日に留保されたとみるべきである。したがって、形式的に機械が買主の元に置かれたとしても、それは未完成品の保管に過ぎず、売買契約上の引渡義務の履行を了したものとはいえない。これは瑕疵担保責任の問題(引渡し後の瑕疵)ではなく、履行そのものの未了の問題である。
結論
本件機械の引渡しは完了していない。したがって、売主は依然として債務不履行の状態にあり、引渡義務の履行を了したことを前提とする主張は認められない。
実務上の射程
本判決は、特定物売買であっても客観的に瑕疵のない状態での引渡しを一般的に要求するものではないが、当事者間で「修理後の再引渡し」が合意されるような重大な不備がある場合には、引渡しそのものが否定されうることを示している。答案上は、引渡しの有無が問題となる場面(代金支払拒絶権や危険負担の移転等)において、当事者の合意内容や目的物の完成度を検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和30(オ)6 / 裁判年月日: 昭和32年6月7日 / 結論: 破棄差戻
履行に代わる損害賠償額を時価により算定するにあたり、裁判所が債務の履行期および不履行の時期を確定せず、漫然、訴提起後のある時期における時価を基礎とし、結局、右算定の基準とされた時期が、当該債務不履行と如何なる関係にあるか判文上不明の場合は理由不備の違法があるというべきである。