賃借人が賃貸人のため賃料を受領する権限のある者に対して、賃料額と同額の額面金額の小切手を持参提供し、もし現金を必要とするなら今日は日曜日であるから明日小切手を現金化して持参するからと申し入れ、これが受領され、かつ、小切手による賃料の支払は従前も行われたことがあるような場合には、賃料債務の本旨に従つた履行の提供がなされたものと解するのが相当である。
小切手の提供が賃料債務の本旨に従つた履行の提供にあたるとされた事例。
民法493条
判旨
仮執行宣言付判決に基づく強制執行により建物の明渡を受けた賃貸人が、控訴審継続中に当該建物を取り壊した場合、賃借権が存続していた以上、建物滅失により賃借権を侵害したことについて賃貸人に少なくとも過失が認められ、不法行為責任を負う。
問題の所在(論点)
1. 賃料支払に代わる小切手の提供が履行遅滞を解消するか。2. 仮執行宣言付判決に基づく強制執行により明渡を受けた建物を、控訴審継続中に取り壊した行為について、賃貸人に過失が認められるか。
規範
1. 債務の支払に代えて小切手を提供し、債権者が異議なくこれを受領し、または後日の現金化を承諾した場合には、特段の事情がない限り、有効な提供として履行遅滞を解消する。2. 仮執行宣言付判決に基づき強制執行がなされた場合であっても、その後の上級審で賃借権の存在が認められる余地がある以上、建物を取り壊して賃借権の行使を不能にした賃貸人には、当該侵害について少なくとも過失が認められる。
重要事実
賃貸人(上告人)は、賃借人(被上告人)に対し、賃料延滞を理由として建物明渡請求訴訟を提起した。賃借人は催告期間内に、従前の慣習に従い、賃料相当額の小切手を賃貸人の代理人に対し提供した。代理人は、賃借人から「日曜なので翌日に現金化して持参する」との申し出を受け、これを了承して異議なく受領した。一審は賃貸人勝訴の仮執行宣言付判決を言い渡し、賃貸人はこれに基づき建物明渡の強制執行を完了させた。しかし、賃貸人は賃借人が控訴し訴訟が継続しているにもかかわらず、本件建物を取り壊した。
あてはめ
1. 賃借人は期限内に小切手を提供し、代理人もこれを確認した上で受領を了承している。従前も同様の支払方法が行われていた事実に鑑みれば、この提供により賃料債務の遅滞は解消されたといえる。したがって、賃料延滞を理由とする解除は認められず、賃借権は依然として存続していた。2. 賃貸人は、仮執行宣言に基づき建物の占有を適法に取得したとしても、控訴審の結果次第で賃借権が認められる可能性を予見すべき立場にある。にもかかわらず、訴訟継続中に建物を取り壊して賃借権を永久に消滅させたことは、賃借人の権利を侵害するものであり、少なくとも過失があるものと解される。
結論
建物の取り壊し当時において賃借権が存続していた以上、賃貸人による取り壊しは不法行為を構成し、上告人の損害賠償責任を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
仮執行による執行はあくまで暫定的なものであり、後の本案判決での逆転リスクは執行債権者が負う。特に建物取り壊しのような現状回復不可能な行為については、債務者の権利(賃借権等)が存続する可能性がある限り、執行債権者の過失が極めて容易に肯定されることを示す。
事件番号: 昭和35(オ)1149 / 裁判年月日: 昭和37年6月8日 / 結論: 棄却
正当事由に基づく家屋受渡請求事件において、被告(賃借人)先代が賃料につき提供も供託もしていないことをもつて、他人の家屋を使用する者として信義に反する旨の主張が原告(賃貸人)によつてなされ、被告が右事実を認めたが、右賃料についてはその後被告はこれを供託した旨陳述し、これに対し原告がその点を争わないと述べているときは、原告…