所有者甲から農地を買い受ける旨契約して代金を支払つた乙がいまだ右による所有権移転につき県知事の許可を受けないうちに、第三者丙において、右農地買受の事実がないのに同人名義に所有権移転の県知事の許可および登記を経たうえ、右農地を占有耕作するに至つたため、乙としては、もはや右農地の所有権の移転を売主甲から受けることが至難となつた等判示の事実関係のもとでは、本来の買主たる乙は支払済代金相当の損失をこうむり、他方丙はなんら法律上の原因なくして買主と同一の状態を事実上保持して右農地を占有耕作する利益を得、その利益の相当額が乙の前示支払済代金額を下らないと認定され、かつ、右利得と損失との間に相当因果関係が認められるから、乙は丙に対し、右支払済代金額相当の不当利得返還請求ができる。
農地の買受代金の支払済に乗じて事実上買主と同様の利益を得た第三者に対し本来の買主からの不当利益返還請求が認められた事例。
民法703条
判旨
不当利得における「損失」と「利得」の因果関係について、本来の買受人が代金を支払いながら農地法上の許可手続未了に乗じて他者が自己名義に登記した等の事情がある場合、買受人の支払代金相当額を損失とし、他者の占有利益を利得とする両者の間の相当因果関係を認めることができる。
問題の所在(論点)
農地の二重譲渡的状況において、所有権を未取得の買受人が支払った「代金相当額の損失」と、不法に登記・占有を取得した者の「占有利益(利得)」との間に、不当利得法上の相当因果関係が認められるか。
規範
民法703条の不当利得が成立するためには、「法律上の原因」なく「利得」を得、それによって他者に「損失」を与え、かつ両者の間に「因果関係」があることを要する。ここでいう因果関係は、社会通念上の相当因果関係があれば足りる。また、他者が法律上の原因なく目的物を占有し所有権者と同様の利益を得ている一方で、本来の権利者がその取得のために支出した代金相当の利益を喪失している場合には、その代金額を限度として利得と損失の間の因果関係を肯定しうる。
重要事実
被上告人B1は田畑を買い受け代金を完済したが、農地法上の許可手続等が未了であった。その隙に、上告人は自分が買い受けたものと偽って知事の許可を得、自己名義に所有権移転登記を行い、当該田畑を独占的に占有耕作した。B1は、行政処分の取消が困難な状況にあり、確定的に所有権を取得することが至難となった。B1は上告人に対し、不当利得として支払済代金相当額(19万5000円)の返還を求めた。
あてはめ
上告人は、真実の買受人ではないにもかかわらず、不正な手段で知事の許可及び登記を得て、所有権者と同様の占有利益を享受している。これは「法律上の原因」がない利得である。他方、B1は代金を完済しながら、上告人の行為によって所有権取得が至難となり、支払った代金19万5000円相当の「損失」を被っている。上告人が得ている占有利益は、B1が本来得るべきであった地位を不当に奪った結果生じたものであり、両者の間には社会通念上の相当因果関係が認められる。利得の額についても、B1が支払った代金額を下回らないと評価できる。
結論
B1の損失と上告人の利得との間には相当因果関係が認められ、上告人はB1に対し、支払済代金相当額について不当利得返還義務を負う。
実務上の射程
本判決は、直接の債権債務関係がない当事者間(いわゆる三角関係)や、損失の態様(代金支出)と利得の態様(占有)が異なる場合であっても、公平の観点から「相当因果関係」を広く認める実務上の指針となっている。答案上は、直接の因果関係が不明確な事案において「社会通念上の相当因果関係」を導く際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)977 / 裁判年月日: 昭和40年2月19日 / 結論: 棄却
土地所有者が、該土地賃借人に対して賃料請求権を有するからといつて、これがため建物所有者(無断転借人)の敷地不法占有により土地所有者に賃料相当の損害を生じないとはいえない。
事件番号: 昭和38(オ)603 / 裁判年月日: 昭和40年1月12日 / 結論: 棄却
目的物件の所有者は、その目的物件を現在の賃料額よりも高額で第三者に賃貸できるような場合には、その高額の賃料額相当の損害金を不法占有者に対し請求できる。