上告人(家屋賃借人)は本件賃貸借をなした主要目的を達しており、被上告人(家屋賃貸人)の賃貸人としての債務はその主要な部分において履行されたもので、被上告人の本件風俗営業許可申請協力義務の不履行は一部の比較的軽徴な債務部分の不履行にすぎない等、原判決認定の事実関係のもとでは、上告人は、被上告人の右協力義務不履行により風俗営業を営めないため収益できない割合に応じ、賃料の一部支払を拒絶し得る同時履行の抗弁権を有するにすぎず、賃料全部の支払を拒み得ない。
家屋賃貸人の側に一部の債務不履行があるが家屋賃借人は賃料全部の支払を拒み得ないとされた事例
民法533条,民法601条
判旨
賃貸人の債務不履行が一部の比較的軽微な義務にとどまる場合、賃借人は、その不履行により収益できない割合に応じた賃料の一部の支払を拒絶できるにとどまり、賃料全額の支払を拒むことはできない。
問題の所在(論点)
賃貸人に一部の付随的義務(協力義務)の不履行がある場合、賃借人は同時履行の抗弁権に基づき、賃料全額の支払を拒絶することができるか。
規範
双務契約における同時履行の抗弁権(民法533条)の行使は、相手方の債務不履行が契約の主要な目的の達成を妨げるものではなく、一部かつ比較的軽微な義務の不履行にとどまる場合には、不履行の程度に応じた相応の範囲に制限される。
重要事実
賃借人(上告人)は、風俗営業を営む目的で建物を賃借した。賃貸人(被上告人)には風俗営業許可申請への協力義務があったが、これを履行しなかった。しかし、賃借人は当該建物の使用により賃貸借の主要目的を既に達成しており、賃貸人の義務は主要な部分において履行されていた。賃借人は、上記協力義務の不履行を理由に、賃料全額の支払を拒絶した。
あてはめ
本件において、賃貸人の協力義務不履行は「一部の比較的軽微な債務部分」の不履行にすぎない。賃借人は賃貸借の主要目的を達成しており、賃貸人の債務は主要部分で履行されていると評価できる。したがって、賃借人が拒絶できるのは、協力義務不履行により風俗営業を営めないため収益できない割合に応じた「賃料の一部」に限られ、賃料全額の拒絶は認められない。
結論
賃借人は同時履行の抗弁権に基づき賃料の一部支払を拒絶し得るにすぎず、賃料全部の支払を拒むことはできない。
実務上の射程
同時履行の抗弁権行使における信義則上の制約(一部不履行と全額拒絶の均衡)を示す判例である。答案上は、付随的義務違反や一部不履行に対して過大な反対給付拒絶がなされた際、533条の類推適用や1条2項(信義則)を根拠として拒絶の範囲を制限する論理として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)143 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 破棄差戻
賃貸人が一たん賃料の受領を拒絶した場合であつても、特段の事情がないかぎり賃借人はその後支払うべき賃料につき弁済の提供をしない以上債務不履行の責を免れない。