甲家屋の賃貸人がその賃料の支払を催告したのに対し、賃借人が、乙家屋と丙土地もともに賃貸借の目的物であると争つて甲家屋の賃料に乙家屋と丙土地の相当賃料額を合わせた金員を、その金額を受領しなければ支払わない意思で提供した場合には、債務の本旨に従つた履行の提供があつたものとはいえない。
債務の本旨に従つた履行の提供と認められない事例
民法493条,民法541条
判旨
賃借人が催告額を超過する金額を提供した場合であっても、それが賃貸借の目的物でない範囲の賃料を包含し、全額受領を強いるものであれば、債務の本旨に従った提供とはいえず、受領拒絶は正当である。
問題の所在(論点)
賃借人が、本来の債務額(催告額)を超過する金員を提供した際、賃貸借の目的物の範囲に争いがある状況で「全額受領」を条件とした場合、債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)として有効か。
規範
債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)といえるためには、提供された給付の内容が債務の客観的内容と一致するだけでなく、賃貸人において受領することで不当な法的地位の承認を強いられるような不利益が生じない態様でなされる必要がある。
重要事実
賃貸人(被上告人)が建物(イ)の延滞賃料を催告したのに対し、賃借人(上告人)は、賃貸借の目的物ではない建物(ロ)及び土地(ハ)も目的物に含まれると主張した。その上で、上告人は(ロ)(ハ)部分の賃料をも含めた全額を提供し、この全額を受領しなければ支払わないという意思を表示した。
あてはめ
賃貸人が、争いのある目的物(ロ)(ハ)に相当する賃料を併せて受領した場合には、後にそれらが賃貸借の目的物であることを承認したと認められる資料となるおそれがある。本件の上告人は、本来の債務額を超える提供をなしつつも、賃貸人が争っている範囲を含めた「全額」を受領しなければ支払わないという意思であった。このような態様による提供は、賃貸人に不当な譲歩を強いるものであり、債務の本旨に従ったものとは認められない。したがって、賃貸人が受領を拒絶することは相当である。
結論
本件の提供は債務の本旨に従ったものとはいえず、履行の提供としての効力を有しない。そのため、受領遅滞は成立せず、賃貸人の受領拒絶は正当である。
実務上の射程
過少提供だけでなく、本件のような「条件付きの過大提供」も債務の本旨に反し得ることを示す。答案上は、単なる金額の多寡だけでなく、提供の態様が相手方の不当な権利承認等に結びつくかという視点から、履行の提供の有効性を論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1236 / 裁判年月日: 昭和37年6月26日 / 結論: 棄却
所有権取得登記後、右登記されたとおりの所有権の移転が実際に行われた場合には、その時以後右登記は有効であると解すべきである。