民法第七一五条の使用者の損害賠償義務と加害者(被用者)本人の損害賠償義務とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあるにすぎないから、加害者本人と被害者間の示談契約によつては、使用者は事故による損害賠償義務を免れるものではないと解するのが相当である。
民法第七一五条の使用者責任と被用者自身の責任との関係
民法715条,民法437条
判旨
不法行為の加害者の一人と被害者との間で示談が成立しても、他の加害者にその効果を及ぼす意思の表明がない限り、他の加害者は賠償義務を免れない。
問題の所在(論点)
共同不法行為者の一人と被害者との間でなされた示談の効果が、当然に他の共同不法行為者(使用者等)に及ぶか。民法715条の使用者責任における損害賠償義務の範囲と示談の効力が問題となる。
規範
共同不法行為者の一人が被害者との間で示談(和解)を成立させた場合、その示談による債務免除や賠償額の合意等の効果が他の共同不法行為者に及ぶか否かは、示談の当事者間に他の共同不法行為者に対してもその効果を及ぼす意思(債務免除等の意思表示)があったか否かによって決せられる。
重要事実
上告人Aおよび上告会社が関与した事故について、被害者である被上告人と加害者の一人である上告人Aとの間で示談が成立した。その後、被上告人が上告会社に対しても損害賠償を請求したところ、上告会社は当該示談によって自らの賠償義務も消滅したと主張して争った。
事件番号: 昭和40(オ)679 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。
あてはめ
本件では、示談は被上告人と上告人Aとの間のみでなされたものであり、上告会社にもその効果を及ぼす意思の表明があったことを認めるに足りる証拠がない。したがって、示談の効力を他の加害者に及ぼす合意が存在したとはいえないため、上告会社が賠償義務を免れる理由はないと評価される。
結論
上告会社は本件示談によって賠償義務を免れるものではなく、被上告人に対して依然として損害賠償責任を負う。
実務上の射程
共同不法行為における「不真正連帯債務」の性質を確認する判例である。一人の債務者について生じた事由(免除等)が他の債務者に影響しない(相対的効力)という原則を前提に、意思表示の解釈として他方にも効力を及ぼす特約がない限り、他の加害者の責任は免除されないことを示している。答案上は、債務免除の相対効の例外(絶対効)を認めるべき特段の事情(意思表示の解釈)の有無を検討する際に用いる。
事件番号: 昭和39(オ)538 / 裁判年月日: 昭和43年4月11日 / 結論: その他
母の身体侵害を理由とする子の慰藉料請求と右身体侵害に基づく母の生命侵害を理由とする子の慰藉料請求とは、同一性がなく、前者に関する調停が成立した後母が死亡した場合には、特別の事情のないかぎり、その調停が後者をも含むと解することはできない。
事件番号: 昭和32(オ)760 / 裁判年月日: 昭和36年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車運転者は、前方に同一方向に進行する自転車がある場合、進路の間隔を十分に保ち、自転車の予期せぬ挙動にも対応できるよう減速すべき注意義務を負い、また、使用者が民法715条1項但書による免責を受けるには選任及び監督の両方について相当の注意を尽くしたことを要する。 第1 事案の概要:加害者Aは、自動…