被用者の不法行為に基づく損害賠償債務に関する確定判決の存在は、民法七一五条に基づく使用者に対する損害賠償請求訴訟において、その賠償額の認定に影響を及ぼすものではない。
被用者の不法行為に基づく責任と民法七一五条に基づく使用者の責任との関係
民法709条,民法715条
判旨
使用者の損害賠償債務と被用者の損害賠償債務は不真正連帯債務の関係にあり、被用者の債務に関する確定判決の効力は使用者の債務に影響を及ぼさない。したがって、使用者に対する訴訟において被用者の確定判決額を超える賠償額を認定することも許される。
問題の所在(論点)
被用者の損害賠償額を認定した確定判決が存在する場合、使用者に対する損害賠償請求訴訟において、その確定額を超える賠償額を認定することができるか。不真正連帯債務における判決の効力の及ぶ範囲が問題となる。
規範
民法715条に基づく使用者の賠償債務と、同709条に基づく被用者の賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務の関係にある。不真正連帯債務においては、債務者の一人について生じた事由は、弁済等の債権を満足させるものを除き、他の債務者に影響を及ぼさない(相対的効力の原則)。
重要事実
被用者が事業の執行につき第三者に損害を加えた事案において、先に被用者に対する損害賠償請求訴訟の判決が確定していた。その後、被害者が使用者に対して損害賠償を求めた訴訟において、裁判所が被用者の確定判決における賠償額を超える額の損害を認定したところ、上告人(使用者)がこれを違法であるとして争った。
事件番号: 昭和39(オ)1430 / 裁判年月日: 昭和40年9月14日 / 結論: 棄却
民法第七一五条の使用者の損害賠償義務と加害者(被用者)本人の損害賠償義務とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあるにすぎないから、加害者本人と被害者間の示談契約によつては、使用者は事故による損害賠償義務を免れるものではないと解するのが相当である。
あてはめ
使用者の債務と被用者の債務は不真正連帯の関係にあるため、被用者について判決が確定したという事由は、弁済等の債権満足事由に当たらない限り、使用者の債務に影響を及ぼさない。また、使用者の求償権は使用者・被用者間の内部関係に基づくものであり、被害者との関係とは別個に解決されるべきものである。したがって、認定賠償額が被用者の確定判決額を超えていても、使用者がその全額を被用者に求償し得ないわけではなく、不当な不利益を強いることにもならない。
結論
被用者の債務に関する確定判決が存在しても、使用者の債務に影響を及ぼすものではない。よって、被用者の確定判決額を超える賠償額を使用者に命じることは適法である。
実務上の射程
不真正連帯債務の相対的効力を明示した重要判例である。答案上は、使用者責任の性質を不真正連帯債務と定義した上で、共同被告間での判決の不一致や、一方の債務者の判決確定が他方に及ぼさないことを論証する際に用いる。求償権の行使可能性についても触れ、実質的公平を担保している点も付記すべきである。
事件番号: 昭和40(オ)679 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。