甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。
交通事故により会社代表者を負傷させた者に対する会社の損害賠償請求が認められた事例
民法709条
判旨
実質的に個人企業と解される会社において、代表者が唯一の不可欠な存在であり、経済的に一体をなすと認められる場合には、代表者に対する加害行為と会社が被った損害との間に相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
不法行為の直接の被害者ではない法人が、その代表者の負傷によって生じた逸失利益(いわゆる企業損害)につき、加害者に対して損害賠償を請求できるか。法人の実質が個人企業である場合における相当因果関係の有無が問題となる。
規範
不法行為に基づく損害賠償における因果関係に関し、直接の被害者以外の者が受けた損害が賠償の対象となるかは、被害者と当該第三者との経済的一体性の有無により判断する。具体的には、法人が形式上のもので実質的に個人会社であり、被害者が機関として代替性を有さず、その法人の存続に不可欠な存在である場合には、被害者に対する加害行為と法人の損害との間に相当因果関係が認められる。
重要事実
Dは、個人経営の薬局を節税目的で有限会社(被上告会社)に改組した。社員はDとその妻の2名のみで、妻は名目上の社員にすぎず、Dが唯一の取締役かつ唯一の薬剤師であった。Dがスクーターを運転中に上告人の過失により負傷したため、会社はDの稼働不能による逸失利益の賠償を求めた。上告人は、会社とDは別法人であり、会社が受けた損害は間接的損害にすぎず因果関係がないと主張した。
事件番号: 昭和39(オ)1430 / 裁判年月日: 昭和40年9月14日 / 結論: 棄却
民法第七一五条の使用者の損害賠償義務と加害者(被用者)本人の損害賠償義務とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあるにすぎないから、加害者本人と被害者間の示談契約によつては、使用者は事故による損害賠償義務を免れるものではないと解するのが相当である。
あてはめ
被上告会社は形式上有限会社という法形態をとるが、実質はD個人の営業である。D以外に薬剤師はおらず、Dを離れて会社の存続は考えられないことから、Dは余人をもって代えがたい不可欠な存在といえる。また、実権はD個人に集中しており、機関としての代替性もない。したがって、経済的にDと被上告会社は一体をなす関係にある。このような事実関係のもとでは、直接の被害者であるDに対する加害行為と、間接の被害者たる会社が被った利益の逸失との間には、相当因果ランキングが認められると評価される。
結論
上告人のDに対する加害行為と被上告会社の損害との間には相当因果関係が認められるため、被上告会社の請求を認容した原判決は正当である。
実務上の射程
個人会社における代表者の死傷に伴う企業損害(逸失利益)の賠償請求を認める際のリーディングケースである。答案上は、まず法人格否認の法理に近い実質的判断を示し、当該個人が会社にとって「不可欠な存在(代替不能性)」であることを具体的事実(株主構成、業務内容、資格の有無等)から摘示して、相当因果ランキングを基礎づける。ただし、本法理はあくまで極めて密接な一体性がある場合に限定される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和54(オ)719 / 裁判年月日: 昭和58年10月6日 / 結論: 破棄差戻
一 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権は、加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意若しくはかかる支払を命ずる債務名義が成立したなどその具体的な金額が当事者間において客観的に確定したとき又は被害者が死亡したときは、行使上の一身専属性を失う。 二 名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後…
事件番号: 昭和29(オ)848 / 裁判年月日: 昭和31年12月18日 / 結論: 破棄差戻
国が連合国占領軍の接収通知に応じ、建物をその所有者から賃借してこれを同軍の使用に供した場合には、国はその建物の設置保存に関する瑕疵に基因する損害につき、民法第七一七条にいう占有者としてその責に任ずべきである。