一 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権は、加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意若しくはかかる支払を命ずる債務名義が成立したなどその具体的な金額が当事者間において客観的に確定したとき又は被害者が死亡したときは、行使上の一身専属性を失う。 二 名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後に行使上の一身専属性を失つた場合には、破産法二八三条一項後段の適用はない。
一 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権と行使上の一身専属性の喪失事由 二 名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後に行使上の一身専属性を失つた場合と破産法二八三条一項後段の適用の有無
民法423条,民法710条,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)570条1項,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)618条1項,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)6条3項,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)283条1項後段
判旨
不法行為による慰藉料請求権は、被害者が行使の意思を表示しただけでは行使上の一身専属性を失わず、具体的な金額が合意や債務名義等で客観的に確定するまでは破産財団に帰属しない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく慰藉料請求権について、被害者が行使の意思を表示した場合、直ちに一身専属性を失い破産財団に帰属するか(破産者の当事者適格の有無)。
規範
慰藉料請求権は、被害者の人格的価値の毀損による精神的苦痛の回復を目的とするため、その行使は被害者自身の自律的判断に委ねられるべきである。したがって、行使の意思表示がなされたとしても、具体的な金額が合意または債務名義の成立等により客観的に確定しない間は、依然として「行使上の一身専属性」を有する。もっとも、金額が客観的に確定した場合や、被害者が死亡し承継が生じた場合は、自律的判断を尊重すべき理由がなくなるため、一身専属性を失い、差し押さえや債権者代位の対象となる客観的な金銭債権へと転化する。
事件番号: 昭和40(オ)679 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。
重要事実
亡Dは、町長在職時の贈賄容疑での起訴が検察官の過失による違法な公権力行使であり名誉を毀損されたとして、国家賠償法に基づく慰藉料請求訴訟を提起した。Dは訴え提起前に破産宣告を受けていた。原審は、慰藉料請求権は行使の意思が明示された時に破産財団に帰属し、破産管財人が管理処分権を有すると判断して、Dの当事者適格を否定し訴えを却下した。なお、Dは原審係属中に死亡した。
あてはめ
Dが本件訴訟を提起して慰藉料請求権を行使する意思を明示したとしても、その時点ではいまだ具体的な金額が客観的に確定していない。そのため、Dには依然として「請求意思を貫くか」を判断する自律的な自由が認められるべきであり、当該請求権の行使上の一身専属性は失われない。したがって、Dが破産宣告を受けていたとしても、当該請求権が直ちに破産財団に帰属することはない。また、Dの死亡により一身専属性は失われるが、既に破産終結決定がなされている本件においては、相続人が本件訴訟を承継すべきであり、当事者適格は否定されない。
結論
慰藉料請求権は、単に行使の意思を表示しただけでは一身専属性を失わない。したがって、破産宣告後であっても金額が客観的に確定しない間は破産財団に帰属せず、破産者の当事者適格は失われない。
実務上の射程
被害者の主観や感情に密接に関わる慰藉料請求権の特殊性を踏まえ、差押禁止債権(民事執行法152条等)や債権者代位の可否を論じる際の「一身専属性」の判断基準として活用できる。金額の「確定」を転化の基準とする点は、破産法上の破産財団の範囲(旧破産法6条、現行破産法34条)を画定する際の実務指針となる。
事件番号: 平成4(オ)1814 / 裁判年月日: 平成6年11月24日 / 結論: 破棄自判
共同不法行為者が負担する損害賠償債務については、民法四三七条の規定は適用されない。
事件番号: 昭和39(オ)1430 / 裁判年月日: 昭和40年9月14日 / 結論: 棄却
民法第七一五条の使用者の損害賠償義務と加害者(被用者)本人の損害賠償義務とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあるにすぎないから、加害者本人と被害者間の示談契約によつては、使用者は事故による損害賠償義務を免れるものではないと解するのが相当である。