共同不法行為者が負担する損害賠償債務については、民法四三七条の規定は適用されない。
共同不法行為者が負担する損害賠償債務と民法四三七条の適用の有無
民法437条,民法719条
判旨
共同不法行為者の一人に対してなされた債務免除は、不真正連帯債務の性質上、特段の事情がない限り他の共同不法行為者にはその効力が及ばない。被害者が一方の債務のみを免除し、他方には全額請求する意思であると解される場合には、他方の債務に影響を与えない。
問題の所在(論点)
共同不法行為者の一人(配偶者D)に対してなされた債務免除が、他の共同不法行為者(不倫相手である被上告人)に対しても、絶対的効力としてその負担部分の限度で効力を及ぼすか。
規範
民法719条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではない。したがって、連帯債務に関する民法437条(現441条本文)の規定は適用されず、一方の債務者に対する免除は、他方の債務者に対して当然にその効力を生ずるものではない。
重要事実
上告人の配偶者Dと被上告人が不貞行為に及び、婚姻関係が破綻した。上告人とDは離婚調停を行い、調停条項において「清算条項(互いに金銭その他一切の請求をしない)」を定めた。これにより上告人はDに対する離婚慰謝料等の支払義務を免除した形となったが、その約4か月後、上告人は被上告人に対し不法行為に基づく慰謝料請求訴訟を提起した。
あてはめ
本件調停条項において、上告人が被上告人に対しても免除の効力を及ぼす意思であったことはうかがわれない。むしろ、調停成立後わずか4か月で被上告人に対し提訴している事実に鑑みれば、上告人はDの債務のみを免除し、被上告人に対しては後日全額の賠償を請求する意思であったと解するのが相当である。不真正連帯債務において、免除による絶対的効力を認めるべき特段の事情は認められない。
結論
Dに対する債務免除は被上告人との関係では何ら効力を有しない。したがって、被上告人は免除による減額を主張できず、慰謝料全額(300万円)の支払義務を負う。
実務上の射程
共同不法行為における不真正連帯債務の性質(相対的効力の原則)を確認する重要判例である。答案上は、まず不真正連帯債務であることを明示し、441条本文を根拠に相対的効力であることを指摘した上で、免除の意思表示の解釈として他の債務者に及ぼす意図があったか否かを検討する枠組みで用いる。
事件番号: 昭和39(オ)1430 / 裁判年月日: 昭和40年9月14日 / 結論: 棄却
民法第七一五条の使用者の損害賠償義務と加害者(被用者)本人の損害賠償義務とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあるにすぎないから、加害者本人と被害者間の示談契約によつては、使用者は事故による損害賠償義務を免れるものではないと解するのが相当である。
事件番号: 昭和40(オ)679 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。