賃料債務について履行遅滞にある賃借人が、賃貸人から賃貸借を解除される前に右延滞賃料額金一、六二〇円を弁済のため提供し、供託した場合において、右金額が正当な債務額より遅延損害金たる金一二円七〇銭ないし一四円が不足するとしても、右弁済提供および供託が、ただちに、債務の本旨に従わないものであるとはいえない。
賃借人のした延滞賃料の弁済提供・供託金額の不足が債務の本旨に従わないものでないとされた事例
民法493条,民法494条
判旨
履行遅滞にある債務者が債務額に比して極めて僅かな不足(遅延損害金等)を伴う弁済の提供をした場合、債権者がその不足を理由に受領を拒絶することは、信義則上許されない。特段の事情がない限り、このような僅少な不足がある弁済の提供も債務の本旨に従ったものとして有効である。
問題の所在(論点)
履行遅滞にある債務者が、元本全額を提供したが遅延損害金を含めていなかった場合において、その不足額が極めて僅少であるときに、当該提供を「債務の本旨に従った提供」と認めることができるか。また、それを拒絶してなされた解除は有効か。
規範
履行遅滞中の債務者が債務の本旨に従った履行(民法493条)をするには、原則として元本に加え遅延損害金を提供する必要がある。もっとも、提供された金額に極めて僅かな不足があるに過ぎない場合、債権者がその不足を名目に受領を拒絶することは、信義則(民法1条2項)に照らし許されない。したがって、特段の事情(債権者が不足を指摘したのに債務者が支払を拒絶した等)のない限り、当該提供は債務の本旨に従ったものとして有効となる。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃貸人(亡D)との和解により、賃料を3回分以上滞納した場合には無催告解除ができる旨合意していた。上告人は3か月分の賃料1,620円を提供したが、Dはこれを受領拒絶したため、上告人は同額を供託した。その後、Dは賃料不払を理由に解除を主張した。なお、提供時における遅延損害金の不足額は12円70銭(元本の約0.8%)に過ぎなかった。
事件番号: 昭和40(オ)900 / 裁判年月日: 昭和43年2月20日 / 結論: その他
民訴法第五四五条の請求に関する異議の訴と同法第五四六条の執行文付与に対する異議の訴とは、目的を異にする別個の訴と解すべきである。
あてはめ
本件で不足していた遅延損害金は12円70銭であり、提供された賃料額1,620円に比して極めて僅かである。このような僅少な額は、債権者が指摘しさえすれば債務者が直ちに支払うのが通常である。したがって、Dが不足を指摘して支払を求めたのに上告人が拒絶したといった「特段の事情」がない限り、上告人の弁済の提供は有効であり、債務不履行は消滅する。その結果、Dによる無催告解除はその前提を欠くことになる。
結論
提供された金額の不足が極めて僅かである場合、信義則上、債務の本旨に従った提供として有効になり得る。本件では特段の事情がない限り解除は無効であり、原審の判断には法令解釈の誤りがあるため、差し戻しを免れない。
実務上の射程
債務不履行解除の有効性を争う場面において、債務者側から「提供の有効性」を主張するための有力な構成となる。特に、計算上の誤差や微々たる付随的債務の不履行を理由とする解除を封じる際の信義則の具体化として機能する。答案では、原則として損害金の提供が必要であることに触れた上で、本判例を根拠に「極めて僅かな不足」と「特段の事情の不在」を検討する枠組みを用いる。
事件番号: 昭和33(オ)780 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
賃料債務の履行遅滞・賃貸借解除の効果が発生した後であっても、当事者は履行遅滞・賃貸借解除の効果を消滅させる特段の合意をすることができる。
事件番号: 昭和33(オ)1121 / 裁判年月日: 昭和35年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額に僅少な不足がある金額の提供であっても、債務者が完全な履行をなすべく可能な限りの注意を尽くしており、これを無効な提供とすることがかえって信義則に反する事情がある場合には、有効な弁済の提供として認められる。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)からの賃料催告に対し、所轄市役…