当事者の申立てざる事項につき判決した場合にあたらないとされた事例。
判旨
当事者が特定の期間の債務を遅滞なく履行した事実を主張している場合、裁判所がその一環として支払のための提供があった事実を認定することは、弁論主義に反しない。
問題の所在(論点)
当事者が「遅滞なく支払った」と主張している場合に、裁判所がその具体的内容として「支払のための提供をした」事実を認定することが、弁論主義(当事者の申し立てない事実の認定禁止)に抵触するか。
規範
弁論主義の第一命題により、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできない。しかし、主要事実そのものの主張がある場合、その具体的な経緯や態様(提供の有無等)について当事者が明示的に特定の文言を用いずとも、主張の全体からその事実が含まれていると解されれば、判決の基礎とすることができる。
重要事実
本件において、被上告人は調停条項に基づく「賃料支払を3ヶ月以上怠った」という条件が成就していないことを主張し、係争の2月、3月、4月分の賃料を遅滞なく支払ったという事実を主張していた。これに対し原審は、被上告人が3月分の賃料を3月末日に支払のために提供した事実を認定し、履行遅滞の存在を否定した。上告人は、支払提供の事実は当事者が主張していないため、弁論主義に違反すると主張した。
あてはめ
被上告人は、本件調停条項の停止条件(賃料不払)が未到来であることを主張する文脈において、対象期間の賃料を「遅滞なく支払った」という主要事実を主張している。この「遅滞なく支払った」という主張の中には、適法な時期に支払のための提供を行い、履行遅滞に陥っていないという事実上の主張が含まれていると解するのが相当である。したがって、原審が支払提供の事実を具体的に認定したことは、当事者の主張の範囲内における認定といえる。
結論
弁論主義違反には当たらない。被上告人が「遅滞なく支払った」と主張している以上、その前提となる支払提供の事実を認定することは許される。
実務上の射程
弁論主義における「主張」の解釈に関する判例である。答案上では、当事者の主張が抽象的であっても、反対事実の主張(本件では履行遅滞の否定)と論理的に結びつく範囲であれば、裁判所の事実認定は合理的な釈明や証拠調べの結果として許容されることを論じる際に参照できる。
事件番号: 昭和38(オ)1277 / 裁判年月日: 昭和39年7月17日 / 結論: 棄却
主張事実と認定事実との間に原判示程度(原判決参照)の差異があるからといって、事実の同一性を害するものとは認められないから、弁論主義に反しない。
事件番号: 昭和39(オ)1318 / 裁判年月日: 昭和41年3月29日 / 結論: 破棄差戻
賃料債務について履行遅滞にある賃借人が、賃貸人から賃貸借を解除される前に右延滞賃料額金一、六二〇円を弁済のため提供し、供託した場合において、右金額が正当な債務額より遅延損害金たる金一二円七〇銭ないし一四円が不足するとしても、右弁済提供および供託が、ただちに、債務の本旨に従わないものであるとはいえない。