一 和解調書において賃料を延滞したときは賃貸借契約を解除することができる旨の条項が定められた場合には、賃料不払による解除の事実は、民訴法第五一八条第二項にいう「他ノ条件」にあたらない。 二 前項の場合において、賃料不払を理由とする契約解除の効果を争つて和解調書に基づく執行力の排除を求めるには、請求に関する異議の訴によるべきであつて、執行交付与に対する異議の訴によるべきではない。
一 和解条項に基づく賃料不払による契約解除の事実は民訴法第五一八条第二項にいう「他ノ条件」にあたるか 二 賃料不払を理由とする契約解除の効果を争つて和解調書に基づく執行力の排除を求めるための訴
民訴法518条2項,民訴法545条,民訴法546条
判旨
賃貸借契約において賃料不払による解除権が発生しても、解除の意思表示がなされる前に債務の本旨に従った履行の提供があれば解除権は消滅する。また、延滞賃料に付随する遅延損害金の提供を欠いても、それが極めて僅少であれば債務の本旨に従った履行の提供として有効である。
問題の所在(論点)
賃料不払により一度発生した解除権は、解除の意思表示がなされる前に債務者が履行の提供をした場合に消滅するか。また、遅延損害金を欠く提供は「債務の本旨に従った履行の提供」といえるか。
規範
1. 契約解除権が発生した後であっても、解除の意思表示がなされる前に、債務者が債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)をしたときは、当該解除権は消滅する。2. 履行の提供において、延滞賃料に付随する遅延損害金を含めていなかったとしても、その額が極めて僅少である場合には、債務の本旨に従った履行の提供に当たると解するのが相当である。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との裁判上の和解に基づき、家賃を2か月以上滞納した場合は無催告で契約解除される旨の約定を交わしていた。上告人は2か月分の賃料を滞納したが、被上告人が解除の意思表示を行う前、賃料を持参して支払を申し出た。しかし、被上告人側の代理人は受領を拒否した。その後、被上告人は当該和解条項に基づき解除の意思表示をした。なお、支払の申出時に遅延損害金が含まれていたかは不明であり、原審は現実の提供があったかについても確定していなかった。
あてはめ
解除権が行使される前に適切な履行の提供があれば、解除を認める必要性は失われるため、解除権は消滅すると解される。本件において、上告人が賃料の現実の提供(民法493条本文)を行っていたならば、たとえ遅延損害金を合わせて提供していなくても、その額が極めて僅少であれば、信義則上または社会通念上、債務の本旨に従った提供といえる。これに対し、単なる口頭の提供(同条但書)にとどまり、かつ被上告人が予め受領を拒む等の特段の事由がない場合には、有効な提供とはいえず解除権は存続する。原審は、この現実の提供の有無を十分に審理していない。
結論
解除の意思表示前に、債務の本旨に従った履行の提供がなされれば解除権は消滅する。原審は現実の提供の有無等の事実を確定せずに解除を認めた点で、民法の解釈を誤り審理不尽の違法がある。
実務上の射程
解除権の行使(民法540条1項)に先立つ履行の提供の効果を明確にした射程の広い判例。答案では「解除の意思表示(通知)が到達する前」というタイミングが重要。また、微小な不備(僅少な損害金の欠落等)が履行の提供の有効性を否定しない点でも活用可能である。
事件番号: 昭和51(オ)633 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
訴訟上の和解によつて、建物の賃借人が賃料の支払を一か月分でも怠つたときは賃貸借契約は当然解除となる旨の定めがされた場合においても、賃料の延滞が一か月分であり、賃借人は、和解成立後賃貸人から賃料の受領を拒絶されるまで、約二年間右一か月分を除いては毎月の賃料を期日に支払つており、右延滞もなんらかの手違いによるものであつて賃…
事件番号: 昭和39(オ)1318 / 裁判年月日: 昭和41年3月29日 / 結論: 破棄差戻
賃料債務について履行遅滞にある賃借人が、賃貸人から賃貸借を解除される前に右延滞賃料額金一、六二〇円を弁済のため提供し、供託した場合において、右金額が正当な債務額より遅延損害金たる金一二円七〇銭ないし一四円が不足するとしても、右弁済提供および供託が、ただちに、債務の本旨に従わないものであるとはいえない。