訴訟上の和解によつて、建物の賃借人が賃料の支払を一か月分でも怠つたときは賃貸借契約は当然解除となる旨の定めがされた場合においても、賃料の延滞が一か月分であり、賃借人は、和解成立後賃貸人から賃料の受領を拒絶されるまで、約二年間右一か月分を除いては毎月の賃料を期日に支払つており、右延滞もなんらかの手違いによるものであつて賃借人がその当時これに気づいていなかつたなど判示の事情があり、賃貸借当事者間の信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当とする程度にまで破壊されたといえないときは、右和解条項に基づき賃貸借契約が当然に解除されたものとは認められない。
賃借人が賃料の支払を一か月分でも怠つたときは建物賃貸借契約は当然解除となる旨の訴訟上の和解条項に基づく契約の当然解除が認められないとされた事例
民法第3編第2章第7節第3款,民法541条,民法695条,民訴法203条
判旨
賃料不払により当然に賃貸借契約が解除される旨の和解条項は、信頼関係が当然解除を相当とする程度にまで破壊されたとはいえず、その効力を認めることが不合理な特別の事情がある場合には適用されない。
問題の所在(論点)
賃料不払による契約の当然解除を定めた訴訟上の和解条項が存在する場合、債務不履行があれば直ちに当然解除の効力が認められるか。信頼関係破壊の理論が、和解条項の解釈を通じて適用されるかが問題となる。
規範
賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることに鑑み、賃料の支払を1か月分でも怠れば契約が当然解除される旨の訴訟上の和解条項は、和解成立の経緯を考慮しても、信頼関係が解除の意思表示を要さず当然解除を相当とする程度にまで破壊されたとはいえず、当然解除の効力を認めることが合理的とはいえない「特別の事情」がある場合には、その効力を認めないものと解すべきである。
重要事実
賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人)は、前訴の建物明渡請求事件において、賃料を一回でも怠れば契約が当然解除され直ちに明け渡す旨の訴訟上の和解を成立させた。その後、賃借人は約2年間にわたり誠実に賃料を支払っていたが、ある1か月分の賃料のみ、何らかの手違いにより期日に支払われず、かつ賃借人はその事実に気づいていなかった。賃貸人はこの支払遅滞を理由に、当然解除の効力を主張して明渡しを求めた。
あてはめ
本件では、和解成立後、賃借人は約3年にわたり毎月の賃料を銀行振込の方法で誠実に支払っており、支払を怠ったのは1か月分のみである。また、その不払も何らかの手違いによるもので賃借人に自覚がなかった。このような事実関係のもとでは、和解成立に至る経緯を考慮しても、解除の意思表示を要さず契約を当然に失効させるほどに信頼関係が破壊されたとはいえない。したがって、当然解除を認めることが合理的とはいえない「特別の事情」がある場合に該当する。
結論
本件和解条項に基づく当然解除の効力は認められず、賃貸借契約は依然として存続する。上告(賃貸人の請求)は棄却される。
実務上の射程
訴訟上の和解という執行力を有する債務名義であっても、賃貸借の性質上、信頼関係破壊の法理による修正が及ぶことを示した。答案上は、無催告解除特約の効力を制限する論理と同様、継続的契約における信頼関係の保護を根拠として、条項の文言を「合理的に限定解釈」する手法として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)550 / 裁判年月日: 昭和41年12月15日 / 結論: 破棄差戻
一 和解調書において賃料を延滞したときは賃貸借契約を解除することができる旨の条項が定められた場合には、賃料不払による解除の事実は、民訴法第五一八条第二項にいう「他ノ条件」にあたらない。 二 前項の場合において、賃料不払を理由とする契約解除の効果を争つて和解調書に基づく執行力の排除を求めるには、請求に関する異議の訴による…