建物収去土地明渡請求事件につき成立した裁判上の和解において、新規に土地賃貸借の合意が成立したが、その際特に無断増改築を禁止する旨の条項が付せられたにもかかわらず、賃借人が右特約に反し賃貸人に無断で借地上の木造映画館を一階はスーパーマーケットに、二階はアパートに、それぞれ改造する等判示の改修工事を施したときは、右工事は土地賃貸借当事者間の信頼関係を破壊するものと解すべきである。
建物所有を目的とする土地賃貸借契約の借地人が無断増改築等を禁止する特約に反してなした建物改修工事が賃貸人に対する信頼関係を破壊するものと認められた事例
民法540条,民法601条
判旨
土地賃貸借において、無断増改築禁止特約に違反して大規模な改修工事が行われた場合、それが賃貸借当事者間の信頼関係を破壊するに足りるものと認められるときは、賃貸人は解除権を行使できる。
問題の所在(論点)
土地賃貸借契約における無断増改築禁止特約に違反する行為が、民法541条に基づく解除を認めるに足りる「信頼関係を破壊する行為」に該当するか。
規範
継続的契約である賃貸借においては、賃借人の義務違反があったとしても、それが賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には、賃貸人は解除権を行使できない(信頼関係破壊の法理)。逆に、特約違反の程度が著しく、当事者間の信頼関係を破壊するに足りる事由がある場合には、解除が認められる。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃貸人(亡D)との裁判上の和解に基づき、新たに土地賃貸借契約を締結した。その際、無断増改築等を禁止する旨の特約が付された。しかし、賃借人はこの特約に反し、貸主に無断で借地上の木造映画館に大規模な改修工事を施した。具体的には、映画館の床をコンクリート敷とし、吹き抜け部分に鉄製梁を入れて二階建てに改造し、建物の用途を映画館から一階はスーパーマーケット、二階はアパートへと一変させた。
事件番号: 昭和39(オ)1450 / 裁判年月日: 昭和41年4月21日 / 結論: 棄却
一 建物所有を目的とする土地の賃貸借中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで借地内の建物の増改築をするときは、賃貸人は催告を要しないで賃貸借を解除することができる旨の特約があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合において、増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさな…
あてはめ
本件における改修工事は、単なる修繕の範囲を超え、木造映画館をコンクリート床の二階建て複合施設へと構造的かつ用途的に一変させる大規模なものである。このような大規模な工事は、土地の利用態様を根本的に変更するものであり、無断増改築を禁止した特約の趣旨を真っ向から阻害する。さらに、裁判上の和解という厳格な合意形成の過程で特に付された禁止条項に違反している点は、当事者間の信頼関係を著しく損なう事情といえる。したがって、本件の無断改修工事は、賃貸借の継続を基礎づける信頼関係を破壊するに足りるものと解される。
結論
本件の無断改修工事は信頼関係を破壊するに足りるため、賃貸人による土地賃貸借契約の解除は有効である。
実務上の射程
無断増改築禁止特約違反を理由とする解除事案において、信頼関係破壊の有無を判断する際のメルクマールとなる。工事の規模、建物の構造・用途の変更度合い、および特約が設けられた経緯(和解条項等)が、信頼関係破壊の有無を基礎付ける重要事実となることを示している。
事件番号: 昭和39(オ)1243 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
地上建物を地主に無断で増改築しない旨の特約に違反して、地主に無断で旧建物たる平家建バラツクを支柱の一部のみを残して他を全部とりこわし、新たに二階建本建築をした等原審認定の事実関係のもとにおいては、右無断増改築を理由とする土地賃貸借契約解除は有効と解すべきである。
事件番号: 昭和47(オ)90 / 裁判年月日: 昭和51年6月3日 / 結論: 棄却
(省略)(最高裁昭和三九年(オ)第一四五〇号同四一年四月二一日第一小法廷判決・民集二〇巻四号七二〇頁参照)