賃料債務の履行遅滞・賃貸借解除の効果が発生した後であっても、当事者は履行遅滞・賃貸借解除の効果を消滅させる特段の合意をすることができる。
賃料不払による履行遅滞・賃貸借解除の効果発生後その効果を消滅させる合意をすることはできるか。
判旨
賃貸借契約において履行遅滞による解除権が発生した後であっても、当事者間に解除の効力を消滅させる旨の合意(特段の意思表示)があれば、解除の効果は消滅する。この合意は、賃料受領の際の状況やその後の交渉経緯に照らし、黙示的に成立することも認められる。
問題の所在(論点)
履行遅滞による解除権の行使または解除の効果が発生した後、延滞賃料を受領することによって解除の効果を消滅させる合意(特段の意思表示)が認められるか。
規範
賃貸借解除の効果が発生した後において、単に延滞賃料を支払ったという事実のみでは解除の効果は消滅しない。しかし、当事者が「特段の意思表示」をもって解除の効果を消滅させることは可能である。この特段の意思表示は、延滞賃料の受領に際して異議を留めなかった事実や、契約の継続を前提とした新たな要求(公正証書作成の督促等)などの諸事情を総合し、黙示の合意として認められる場合がある。
重要事実
被上告人(賃借人)は、昭和29年4月から6月分までの地代を延滞し、履行遅滞に陥った。同年7月25日、被上告人は値上げ後の地代3ヶ月分を小切手で持参したところ、賃貸人の父であり管理処分権限を有するDは、弁済期経過および小切手支払について何ら異議を留めずにこれを受領した。その際、Dは借地の一部明渡し等に関する公正証書作成のための委任状を至急交付するよう要望した。上告人(賃貸人)は、既に発生した解除の効果は消滅しないと主張して争った。
あてはめ
本件では、代理人Dが賃料の支払遅滞および小切手による弁済という点について異議を留めずに受領している。さらに、受領に際して借地の一部明渡しに関する公正証書の作成(契約内容の修正・継続を前提とする手続)を強く要望している。これらの事実に照らせば、単なる遅滞賃料の回収にとどまらず、従前の遅滞および発生した解除の効果を消滅させ、契約を維持させる旨の黙示の合意が成立したものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和39(オ)1318 / 裁判年月日: 昭和41年3月29日 / 結論: 破棄差戻
賃料債務について履行遅滞にある賃借人が、賃貸人から賃貸借を解除される前に右延滞賃料額金一、六二〇円を弁済のため提供し、供託した場合において、右金額が正当な債務額より遅延損害金たる金一二円七〇銭ないし一四円が不足するとしても、右弁済提供および供託が、ただちに、債務の本旨に従わないものであるとはいえない。
結論
本件賃貸借解除の効力を消滅させる特段の意思表示(黙示の合意)が成立したといえるため、解除の効力は消滅する。
実務上の射程
解除権行使後の賃料受領が「解除の撤回」や「追認」として機能するかという文脈で使用する。単なる受領では足りないが、本件のように「契約継続を前提とした付随的交渉」が伴う場合は、特段の意思表示を認定しやすくなる。実務上、解除後の賃料受領に際して「損害金として受領する」等の留保を付さないことの危険性を示す判例としても重要である。
事件番号: 昭和30(オ)10 / 裁判年月日: 昭和31年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務名義が成立した後に、当事者間で当該債務名義に基づく請求権を行使しない旨の合意(不利用の合意)に加え、新たな賃貸借関係等の実体上の権利関係を創設する合意がなされた場合、その合意は有効であり、執行阻止の事由となる。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人らに対し家屋明渡請求権を有する旨の認諾調書(債…
事件番号: 昭和34(オ)170 / 裁判年月日: 昭和37年4月10日 / 結論: 棄却
借家契約を合意解除するとともに、賃貸人において賃借人に対し二年間の明渡猶予を認め、賃借人において賃貸人に対し造作買収請求権を放棄する旨を定めた和解契約は、借家法第六条に違反しない。