既存債務のため手形を交付する場合、右手形の交付は弁済の方法としてなされたものと推認すべく、現実の弁済を得た事実の認められない以上は、特段の事情のない限り、既存の債務を終了せしめる効果を伴うものではない。原審の確定した事実関係(判決理由参照)の下では、原判決認定の合意(本件手形の交付により、上告人に対する被上告人の本件約定債務を終了させる旨の合意)の成立を認めるに足る特段の事情があるとは解せられない。
約束手形の交付により既存債務を消滅させる合意の成立を認めることが経験則に違反するとされた事例
民法493条,民法482条,民法513条
判旨
既存債務の支払いのために手形が交付された場合、特段の事情がない限り、それは弁済の方法としてなされたものと推認され、現実の決済がない限り既存債務は消滅しない。
問題の所在(論点)
既存の金銭債務の支払に代えて手形が交付された場合、手形の交付自体によって既存債務が消滅するか、あるいは手形が決済されるまで既存債務が存続するか(手形交付による既存債務消滅の合意の有無)。
規範
既存債務のために手形を交付する場合、特段の事情のない限り、当該手形の交付は弁済の方法(支払いの「ため」)としてなされたものと推認すべきである。したがって、現実の決済により弁済を得た事実が認められない以上、手形の受領のみによって既存の債務を終了させる(代物弁済としての)効果を伴うものと解することはできない。
重要事実
上告人は、被上告人に対し、自動車の販売代金から被上告人の取得分を控除した残余金の支払を請求した。被上告人は、第三者振出の約束手形7通(合計約46万円)を上告人に交付し、上告人はこれを受領して即日別の支払のために裏書譲渡した。原審は、この交付・受領の事実をもって、手形交付により既存の金銭債務を消滅させる合意が成立したと認定した。
あてはめ
本件において、上告人が手形を受領して直ちに他へ裏書譲渡した事実は、手形を弁済の方法として交付する場合に通常起こり得る取引上の事実にすぎない。このような事実は、手形の交付によって直ちに既存の約定債務を終了させるという「特段の事情」には該当しない。原審が、現実の決済を待たずに債務消滅の合意を認めたのは、経験則に反し、審理不尽の違法がある。
結論
既存債務のために手形が交付されても、特段の事情がない限り、現実の決済がなされるまでは既存債務は消滅しない。
実務上の射程
手形交付による既存債務の存否が争点となる場面での基本判例。実務上、手形交付は「支払のために」なされたものと推定され、債務消滅(代物弁済や更改)を主張する側が「特段の事情」を立証する必要があることを示す。答案では、債務消滅の成否を検討する際の判断枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和40(オ)914 / 裁判年月日: 昭和42年11月2日 / 結論: 棄却
金額に争いのある債権につき、全額に対する弁済を供託原因として供託した金額が債権者の主張する額に足りないのに、債権者がその供託金を受領した場合であつても、債権者において、右供託金を受領するまで一貫して供託金額をこえる金額を請求する訴訟を維持続行していたときには、請求金額中供託金額をこえる部分については、当然留保の意思表示…