判旨
手形による支払は、特段の事情がない限り、手形の決済(不渡りとならずに支払われること)を条件とする「支払のために」なされたものと解される。
問題の所在(論点)
金銭債務の弁済として手形が交付された場合、手形の受領のみをもって直ちに原因債務が消滅するか。また、手形が決済されたことの主張立証責任はどちらにあるか。
規範
金銭債務の支払に代えて手形が交付される場合、別段の意思表示がない限り、その趣旨は「支払に代えて(代物弁済)」ではなく「支払のために」なされたものと推定される。したがって、手形が決済されない限り、原因債務は消滅しない。
重要事実
上告人は、被上告人に対し金105万円の支払を主張し、その内訳として現金および手形を交付した。被上告人は現金および手形を受領した事実は認めたが、その手形が実際に決済された点については争いがあった。原審は、当該手形が被上告人の手許に現存している事実等を認定した上で、債務が消滅したとは認めなかった。
あてはめ
本件において、被上告人が手形を受領した事実は認められるものの、当該手形は被上告人の手許に現存している。手形が不渡りとならずに決済されたという事実は認定されておらず、単なる受領の事実のみでは「支払のために」なされた手形授受の目的を達したとはいえない。上告人の主張は、手形が決済されたという前提を欠くものであり、原因債務の消滅を認めることはできない。
結論
手形の受領のみでは債務消滅の効力は生じず、手形が決済されない限り支払の事実は認められない。したがって、上告人の支払の主張は採用できない。
実務上の射程
手形授受の法的性質(支払のために、支払に代えて、支払の担保として)に関する基本判例である。答案上は、特段の合意がない限り「支払のために(原因債務と手形債務が併存し、決済により原因債務が消滅する)」と解される旨の規範を定立する際に用いる。
事件番号: 昭和33(オ)926 / 裁判年月日: 昭和35年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形要件が欠けている状態で振り出された手形であっても、振出人に白地補充権を授与する意思が認められる場合には、有効な白地手形として成立し、補充により手形上の権利が確定する。 第1 事案の概要:上告人(振出人)は、手形要件の一部が欠けた状態で本件手形を相手方に交付した。その後、当該手形に基づき請求を受…