判旨
手形振出の条件として特定の他手形が支払われない場合には支払責任を負わない旨の特約がある場合、当該特約の成就により手形金の支払義務は否定される。
問題の所在(論点)
手形金の請求に対し、原因関係に基づく「不渡りを条件とする支払義務免除の特約」を対抗できるか、また、原審が特約の存在を認定し請求を棄却した判断に理由不備等の違法があるか。
規範
手形行為に付随してなされた原因関係上の特約(抗弁)の存否については、当事者の意図および証拠に基づき事実認定の問題として判断される。特定の事実が発生しないことを条件として支払義務を免れる旨の特約が認められる場合、その事実の不発生が確定したときは、手形債務の履行を拒絶し得る。
重要事実
上告人(受取人)は、被上告人および第一審相被告D(振出人)に対し、約束手形2通に基づく手形金の支払を求めた。これに対し被上告人は、本件手形の振出にあたり、「上告人が振り出した別の約束手形が昭和29年8月29日に支払われない場合には、被上告人は本件手形の支払責任を負わない」旨の特約があったと主張した。実際、上告人振出の手形は同日に支払われなかった。
あてはめ
原審は、本件手形の振出自体は争いがないとした上で、証拠に基づき「上告人振出の手形が不渡りとなった場合には本件手形の責任を負わない」という特約の存在を認定した。事実として、上告人は指定された期日に自ら振り出した手形金の支払を行わなかった。この特約が成就したことにより、被上告人の支払義務は消滅したと評価される。上告人の主張は事実認定に対する非難に過ぎず、原判決の判断に理由不備や経験則違背は認められない。
結論
本件手形の振出に際し、上告人振出の手形が不渡りとなった場合には支払責任を負わない旨の特約が認められ、かつその不渡り事実が発生した以上、被上告人は支払義務を負わない。
実務上の射程
手形の当事者間(直接の相手方)における人的抗弁(特約)の主張が認められた事例である。実務上は、手形行為そのものの無条件性(手形法1条2号等)と、原因関係に基づく支払拒絶の抗弁(手形法17条但書参照)を区別して構成する際の証拠認定の重要性を示す。
事件番号: 昭和32(オ)644 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形振出人が受取人に対し第三者への譲渡を予期せずに手形を交付した場合でも、署名の上、手形として交付した以上は有効な振出行為が認められる。また、譲渡禁止の特約は人的抗弁にすぎず、第三者が悪意でない限り対抗できない。 第1 事案の概要:振出人(上告人)は、受取人Dとの間で「単なる見せ手形であり、これを…