賃料増額の意思表示が有効である限り、その増額の意思表示の効力を争う賃借人が従前の賃料額を供託しても、債務不履行の責を免れず、右債務不履行を原因とする契約解除は有効である。
賃料増額の意思表示後これを争う賃借人が従前の賃料を供託した場合と債務不履行の成否。
民法541条,借家法7条
判旨
賃貸人による賃料増額請求の意思表示が有効になされた場合、賃借人は増額後の賃料支払義務を負う。従前の賃料額を供託しても不足分の支払がない限り、賃借人は債務不履行の責を免れず、賃貸借契約の解除は有効となる。
問題の所在(論点)
賃貸人による賃料増額請求が有効になされた場合において、賃借人が従前の賃料額を供託したことで、増額後の賃料債務の不履行に基づく契約解除を免れることができるか(賃料増額請求の効力と債務不履行の成否)。
規範
賃料増額請求権(借地借家法32条1項等)が行使され、その請求が客観的に正当な範囲内として有効である場合、その意思表示が到達した時点以降の賃料は増額された額に確定する。賃借人が正当な増額分を支払わない場合、たとえ従前の賃料額を供託したとしても、不足分についての履行遅滞が成立し、賃貸借契約の解除事由となり得る。
重要事実
本件家屋の賃貸人である被上告人らは、賃借人である上告人に対し、家賃の増額請求の意思表示を行った。しかし、賃借人は増額後の賃料を支払わず、従前の賃料額を供託し続けた。これに対し、賃貸人は賃料の不払(債務不履行)を理由として、賃貸借契約の解除を主張した。
あてはめ
原審が認定した事実によれば、本件の賃料増額請求の意思表示は有効である。そのため、賃借人たる上告人は、意思表示後の期間について増額後の賃料を支払う義務を負担する。上告人が従前の額のみを供託し、増額分を支払わなかった以上、その不足分について債務不履行が成立する。賃貸人による解除の意思表示がなされた時点で、信頼関係を破壊するに足りる不履行が認められるため、契約解除は有効と評価される。
結論
賃貸人による増額請求が有効である以上、賃借人は増額後の賃料支払義務を負い、従前額の供託では不十分である。したがって、債務不履行に基づく契約解除は有効である。
実務上の射程
本判決は、賃料増額請求が実体法上有効であることを前提に、その不履行が解除事由となることを示したものである。現行の借地借家法32条2項・3項(相当と認める額の支払による遅滞回避)の規定が整備される以前の判断であるが、正当な額に達しない支払・供託が債務不履行を構成するという原則的な考え方は、現在でも増額確定後の遅延損害金や信頼関係破壊の判断において重要な意義を持つ。
事件番号: 昭和43(オ)410 / 裁判年月日: 昭和43年11月7日 / 結論: 棄却
(省略)