行政事件訴訟特例法の下において、行政処分無効確認訴訟が、当該処分につき同一被告に対し処分の無効を前提とする私法上の法律関係に関する訴訟の係属中に提起された場合においても、後訴をもつて前訴と二重訴訟の関係にあるものとなし得ないのはもとより、訴の利益を欠くものとみることもできない。
行政事件訴訟特例法の下において、行政処分無効確認訴訟が当該処分につき同一被告に対し処分の無効を前提とする私法上の法律関係に関する訴訟の係属中に提起された場合と二重訴訟および訴の利益
行政事件訴訟特例法1条,民訴法231条,民訴法225条
判旨
行政処分無効確認訴訟の訴訟物は当該処分の適否そのものであり、処分を前提とする私法上の法律関係に関する訴訟(現在の法律関係の訴え)とは訴訟物を異にするため、両者が併存しても二重起訴や訴えの利益の欠如には当たらない。
問題の所在(論点)
行政処分無効確認訴訟の訴訟物は何か。また、処分の無効を前提とする私法上の法律関係に関する訴訟(現在の法律関係の訴え)が先行して係属している場合、後から提起された処分無効確認の訴えは、二重起訴の禁止に抵触するか、あるいは補充性の観点から訴えの利益を欠くことになるか。
規範
行政処分無効確認訴訟は、処分が有効視されることで生じる原告の法的地位の不安を解消するため、処分の無効を確定する独立の訴訟形態である。その訴訟物は「当該処分の適否そのもの」であって、「処分によって生じた現在の法律関係の存否」ではない。したがって、処分の無効を前提とする私法上の法律関係に関する訴訟が係属中であっても、処分無効確認の訴えが二重起訴(民訴法142条、旧231条)に該当することや、訴えの利益を欠くことにはならない。
重要事実
上告人(原告)は、国を相手方として、本件農地の買収処分が無効であることを前提に所有権確認訴訟を提起していた。その後、上告人はさらに都道府県知事を被告として、当該買収処分の無効確認を求める訴えを提起した。これに対し、一審および二審は、処分自体は単なる法律事実であり確認の対象とならず、実質的に先行する所有権確認訴訟と訴訟物および当事者を同じくするものであるとして、二重起訴を理由に訴えを却下したため、上告人がこれを不服として上告した。
事件番号: 昭和32(オ)1048 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判の脱漏により訴訟が依然として係属しているか否かは、事実上の記録の取り扱いに依らず、客観的な請求と裁判との対比によって判断される。したがって、先行訴訟で判断が漏れた請求と同一の訴えを提起することは、二重起訴の禁止に抵触し許されない。 第1 事案の概要:上告人は、先行する控訴事件(前訴)において、…
あてはめ
処分無効確認訴訟は、処分の表見的な効力を除去し法的地位の不安を解消することを目的とする独立の訴えである。本件において、上告人が提起した「農地の所有権確認訴訟」は現在の法律関係の存否を争うものであるが、後訴の「買収処分無効確認訴訟」は処分の適否そのものを直接の対象とするものである。両者は訴訟物を異にするため、民訴法上の二重起訴には該当しない。また、処分を直接争う独立の意義が認められる以上、先行訴訟の存在によって直ちに後訴の訴えの利益が否定されることもない。したがって、一審・二審が二重起訴に該当するとして訴えを却下した判断は、行政処分無効確認訴訟の特質を誤解したものである。
結論
行政処分無効確認訴訟と、その処分の無効を前提とする私法上の法律関係に関する訴訟は、訴訟物を異にする。したがって、後者の係属中に前者を提起しても二重起訴には当たらず、訴えの利益も失われない。
実務上の射程
行政事件訴訟法36条の「無効等確認の訴え」の原告適格(予防的無効確認)における「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」という補充性の要件を検討する際の基礎となる。現在の判例法理(最判昭62.1.22等)では、現在の法律関係の訴えが可能であれば原則として無効確認の訴えの利益は否定される(補充性)が、本判決は無効確認訴訟が「独立の訴訟物」を持つことを示しており、公法上の法律関係の争いにおける訴訟選択や重複訴訟の禁止を論じる際の前提知識として重要である。
事件番号: 昭和32(オ)1135 / 裁判年月日: 昭和36年2月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の所有権を有しない者は、当該土地に対する買収・売渡処分の無効確認を求める法律上の利益を有さず、また、所有権に基づかない登記抹消請求も認められない。 第1 事案の概要:上告人(原告)の先代は、本件土地を被上告人(被告)の先代に対し生前贈与していた。その後、自作農創設特別措置法に基づき、本件土地に…
事件番号: 昭和34(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第一の譲受人は、自らが未だ所有権移転登記を備えていない以上、第二の譲受人に対して所有権の取得を対抗することができない。これは、第二の譲受人の有する登記が有効であるか否かを問わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産を譲り受けたと主張しているが、未だその所有権取得の登…
事件番号: 昭和29(オ)28 / 裁判年月日: 昭和33年6月27日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地買収処分において、真実の所有者でない登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、違法ではあるが当然無効とはならず、取消訴訟の対象となるにすぎない。 第1 事案の概要:所有者BがDに対し本件農地を売却し、Dが有効に所有権を取得した。しかし、登記簿上の名義人は依然としてBのままであった。国は、自…
事件番号: 昭和42(行ツ)79 / 裁判年月日: 昭和45年2月17日 / 結論: 棄却
民法一八五条にいう「新権原」の発生を主張するについて、占有者は、その取得につき登記その他の対抗要件を必要としない。 (参考) 一審、札幌地裁昭和三五年(行)第七号、同年(ワ)第三〇八号 昭和四〇年九月二四日判決(訟務月報一二巻二号二六七頁)