土地の一部に対する農地買収処分において、買収令書上は、分筆、地目変換前の土地台帳の表示に基づき買収の対象及び範囲の地番、地目、地積を表示し、かつ土地の一部買収であることを摘要欄に付記するだけで、買収部分の図面の添付もない場合でも、これら記載から推して関係当事者が買収部分を容易に看取することができ、ことに処分の相手方において十分それを了知しえた事情の存するときは、右処分は処分の対象の特定を欠く無効のものということはできない。
土地の一部に対する農地買収処分において令書上の買収部分の表示の不備にかかわらず買収の対象の特定が認められた事例。
自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分における表示の瑕疵が、処分の対象及び範囲を関係当事者が容易に看取でき、かつ相手方がその範囲を了知していた場合には、当該瑕疵は軽微であり無効原因とはならない。
問題の所在(論点)
行政処分(農地買収処分)の対象の表示に瑕疵がある場合において、当該瑕疵が処分の無効原因となるか。
規範
行政処分の対象を示す書面(農地買収令書等)に形式上の瑕疵がある場合であっても、書面全体の記載から処分の対象及び範囲を関係当事者が容易に看取することができ、かつ処分に至る経緯から相手方がその範囲を現に了知していたと認められるときは、当該瑕疵は軽微なものとして処分の効力に影響を与えない。
重要事実
上告人は所有する畑地の宅地化を試みたが、大部分は依然として耕作地として利用されていた。当該土地に対し農地買収処分がなされた際、買収令書には分筆・地目変換前の旧地番等が記載され、一部買収であるにもかかわらず図面も添付されていないという形式上の瑕疵があった。しかし、令書の摘要欄や面積の表示から対象範囲は看取可能であり、買収計画書には実測図が添付されていた。さらに、上告人は異議申立てに伴う現地調査に立ち会い、買収対象の範囲を既に了知していた。
事件番号: 昭和38(オ)348 / 裁判年月日: 昭和39年7月7日 / 結論: 棄却
行政処分の無効を主張するについては、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵があることを具体的事実に基づいて主張すべきである。
あてはめ
本件買収令書には地番表示や図面添付の不備という形式上の瑕疵が認められる。しかし、摘要欄の記載や買収面積の表示から、分筆前の土地を対象としていること及び買収範囲に本件耕作地が含まれることは関係当事者において容易に看取できる。また、買収計画書には実測図が添付されており、上告人自身も現地調査への立会いを通じて買収範囲を了知していた事実に照らせば、処分の特定を欠くほどの重大な違法があるとはいえない。したがって、当該瑕疵は軽微なものにとどまる。
結論
本件買収令書上の表示の瑕疵は軽微であり、買収処分の無効原因には当たらない。
実務上の射程
行政行為の内容の特定に瑕疵がある事案における、無効と取消しの区別(重大かつ明白な瑕疵の有無)に関する判断基準として活用できる。特に、処分の相手方の主観的な認識(知悉)や周囲の状況から客観的に特定可能かという視点は、書面上の不備を補完する要素として実務上重要である。
事件番号: 昭和37(オ)1388 / 裁判年月日: 昭和38年12月12日 / 結論: 棄却
利害関係を有する者が農地委員会長として関与してなされた自作農創設特別措置法三条の規定に基づく農地買収計画樹立決議は、違法ではあるが、他に著しく決議の公正を害する特段の事由の認められないかぎり無効ではない。
事件番号: 昭和37(オ)1389 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
一 農地買収処分の前提としての調査が十分になされたかどうかは、当該処分の有効無効に関係しない(昭和三六年三月七日第三小法廷判決、民集一五巻三号三八一頁)。 二 共有にかかる農地を単独所有であるとして為した買収処分の違法は、その誤認が原審判示のように無理からぬ事情のもとでなされた以上、重大かつ明白な瑕疵ということはできず…
事件番号: 昭和38(オ)533 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人が長年農地を所有していた場合において、その農地を第三者の所有と誤認してなされた買収処分は、たとえ、その第三者が右所有者の女婿であり、世帯主であつたとしても、これを無効と解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)1145 / 裁判年月日: 昭和40年9月2日 / 結論: 棄却
一 自作農創設特別措置法第九条第一項但書による農地買収令書の交付に代わる公告に、令書の交付ができない理由として掲げたところが誤りであつても、客観的に右令書の交付のできない事由が存する以上、その公告の効力を害するものではない。 二 自作農創設特別措置法第九条第一項但書による農地買収令書の交付に代わる公告に、法定の公告事項…